2013.02.12
Category:学長
映画大学の学長としていちばん嬉しいのは、
映画製作の現場で働いてた卒業生が一人前になって、
デビュー作を作って、これを見て下さいと言って学校を訪ねてきてくれるときである。
日本映画大学はまだ卒業生はいないが、
大学の前身である日本映画学校の卒業生は、日本映画の製作現場のいたるところで活躍している。
だから最近も、卒業して助監督をしていた中野量太君が「チチを撮りに」という監督作品を、
同じく韓国からの留学生だったイ・ユンソク君が「ショート・バケーション」という作品を持ってやってきた。
「チチを撮りに」は幼い頃に家を出ていった父親が病気で会いたいと言っているので、
高校生と中学生の姉妹が母親に言われてその写真を撮りに行く、という、
ちょっと皮肉で豊かな情感のあふれたいい作品である。
彼が学生時代に卒業制作で脚本と監督を担当した作品を憶えているが、
なかなか野心的なところはいいが、描写が観念的じゃないかと私は講評したと思う。
ところがこんどの作品は、じつに自然な演技と流れるようなやさしい映像で出来ている。
「ショート・バケーション」もそうで、イ・ユンソク君の卒業制作は全体がどっしりと力強いけれども、
もっと細部に細やかさがほしい、と思ったものだった。
ところが今度は正に細部のデリケートな味わいで魅了される映画である。
昨年、やはり卒業生の押田興将君の監督第一作の「39窃盗団」があった。
ダウン症の障害者が悪者たちに犯罪の手先に使われることがあるという深刻な問題を、
実際にダウン症の自分の弟の主演で作った異色作である。
これが先日、NHKの番組で障害者の問題を考えるうえに重要な映画として紹介され、
押田君が自分で解説していた。弟さんもこの番組に出ており、とても感動的だった。
さて、日本映画大学も今春で開学三年目で、三年目は本格的な実習に入ることになる。
彼らがプロとして作品を発表するようになるのはまだまだ先だが、いまからもう期待で胸がふくらむ思いである。
講義をしながらそう思う。いい映画の作り手になりそうだな、と。
(日本映画大学 学長)