2015.10.13

Category:OB

「落ちこぼれのススメ」難波 望(映画『かぐらめ』脚本)

難波望

 

「映画監督になろう!」
そう固く決意して日本映画学校の門を叩いたのはもう二十年以上前のことである。
だが、入学早々当時引っ込み思案だったぼくは周囲の学生に圧倒されっぱなし。
たちまち学年を代表する劣等生になった。都会的センスに溢れた同級生たちの話題にもついていけず、緩やかな引きこもり生活を始めたぼくは、年度末に退学勧告を受けた。

 

「うーん、映画を創りたいんですけど……(モゴモゴ)」
両親を心配させたくない一心で何とか二年に進級したものの、引きこもり癖は治らずその年の暮れにまたしても退学勧告を受けた。
「まあ、確かに映画監督は向いてないかもしれませんが……(モゴモゴモゴモゴ)」
何とか温情により三年に進級したぼくは脚本ゼミを選択した。
それはゼミの講師が桂千穂さんだったからだ。
桂さんの名は、ぼくの大好きな大林亘彦監督作品(『ふたり』、『あした』など)の脚本家として知っていたから、会ってみたいという好奇心が沸いたのだ。
桂さんと出会い脚本を書くようになってから、ぼくはようやく自分の居場所を見つけた気がした。
その夏、帰省していた実家宛に桂さんから手紙が届いた。
「あなたがこれほど書ける人とは思いませんでした。お見それしました」
それは桂さんに送っていた脚本の講評だった。
短く端的に書かれた桂さんからの手紙がぼくの人生を変えたといっても過言ではない。
そのリップサービスをすっかり本気にしたぼくは<脚本家>を将来の目標として意識するようになった。

 

それから幾年も年月が流れた。
この度、脚本を書いた劇場映画『かぐらめ』が全国順次公開されることになった。
途絶えつつある地方の伝統芸能(獅子神楽)の伝承を題材に父娘の愛と葛藤を描いた物語だ。地味な話ではあるが、熱く心を込めて書いた作品なので、ぜひ観てほしい。

 

映画は山梨での先行上映を経て、第39回モントリオール世界映画祭、Japan Film Festival Los Angels2015で上映された。ロサンゼルスでは武田梨奈さんが主演女優賞を獲得した。
また11月に開催される第24回セントルイス国際映画祭でもノミネートされている。

 

長い人生、落ちこぼれたっていいのだ。流した悔し涙は必ず人生の糧になる。
だから今落ちこぼれている人も映画の世界に飛び込むことを躊躇っている人も恐れることはない。自分を見失わなければどれほど遠回りしてもきっとチャンスは訪れる。
学年一の落ちこぼれだっていつかは映画脚本を書けるようになるのだ。

(日本映画学校映像科10期/日本シナリオ作家協会会員)

 

かぐらめ

 

『かぐらめ』
監督:奥秋泰男
脚本:難波望(日本映画学校10期)
プロデューサー:前信介
エグゼクティブブロデューサー:清家端
アシスタントプロデューサー:山中羽衣
主題歌:片平里菜「姿」
助監督:齊藤勇起
音楽:五十嵐宏治
撮影:岩永洋(日本映画学校19期)
照明:加藤大輝
美術プロデューサー:吉田敬
美術:佐々木信夫
録音:西山徹(日本映画学校6期)
衣装:大森茂雄、加藤友美
ヘアメイク:南場千鶴、柴田広美
スチール:飯田えりか、飯本貴子
©2015『かぐらめ』製作委員会

2015年10月24日より新宿武蔵野館にて公開。
以後全国順次公開。
<公式WEBサイト>
http://www.kagurame.jp/

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