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鶴追人

鶴追人

2017|59min|ドキュメンタリー

ストーリー

北海道東部、釧路管内に位置する鶴居村。その村にホテルTAITOを構えるオーナーの和田正宏は、ホテル営業の傍ら、タンチョウの写真を撮影することを日課にしているプロのカメラマン。そんな和田さんの背景には、父から受け継いだ100年続く伝統のホテル業、絶滅間近だったタンチョウへの給餌活動、そして当時、未開の地であった北海道開拓移民たちの厳しい生活があった――。

解説

釧路地方、鶴居村の市街の中心に佇むホテルTAITO。そのホテルのオーナーである和田正宏さん60歳。彼はタンチョウ専門の写真家である、第一回読売新聞紙貢献賞受賞し、ラムサール事務局のポストカードに採用され世界62カ国に紹介をされた経歴をもち、自身の写真集はこれまで3冊だしており、一冊目の「四季の彩」は今なお、増刷がされている。ホテルのオーナーを務めながらも毎朝タンチョウの姿を撮影に向うのが彼の日課であり、その生活は36年間続いている。引きの構図によって鶴居村の土地を切り抜き、朝霧に包まれながら、生活をしているタンチョウ達の生活の様子を写した作品は、日本絵画のような芸術性と、観る者の共感を誘うようなタンチョウの姿が写し出されている。そこには人間のような不思議な鳥というのが伝わってくるのである。

厳冬期には氷点下30度弱にまで下回る自然環境の下、彼は決まって毎朝うねる山道を駆け巡り、撮影スポットに向かう。

その先にはねぐらである川でタンチョウ達が目覚め、霧の中包まれながらくつろぐ姿を見ることが出来るのであった

彼は撮影のことをこう語る、「仲間に会いに行くような感覚なんだ」

その言葉の背景にはタンチョウと共に生きた村の歴史がある。和田さんの家業は旅館業、4代目を務めている。現在はホテルTAITOとしてレストランと宿泊施設を有し、村の観光業の一角を担う。先代が100年前に移り住み、開業した旅館業である。鶴居村の入植は1886年から行われ、人々に課せられたのは畑にできる土地を開くことであった。湿地帯ではずぶずぶのぬかるみと格闘し、背を越すヨシが密生し、ハンノキが林をつくり、盛り上がるように草株が生える。そして冷涼で、多湿の土地は生育を食物の生育を阻み、生活の過酷さから村を離れたものも数多くいたという。そんな中、大正13年に湿原の奥深くでひっそり生き延びたタンチョウがみつかる。そして、昭和27年、厳冬の中、餌不足により村に現れたタンチョウに村民は冷害の中、数少ない作物を分け与え給餌をしたのであった。給餌活動は今現在も行われており、冬になるとタンチョウたちは給餌場付近の川をねぐらとし生活をする。村の人々は自然の中、タンチョウと共に歩んできたのである。村民の心にタンチョウは平穏をあたえ、今もともに暮らし、観光業の目玉にもなっている。

鶴居村のタンチョウは留鳥で四季の生活を見ることが出来る。ヒナから成鳥になるまでの様子が村では見れるのである。和田さんが作品を通して伝えるのはそのタンチョウの「内面」であるという。タンチョウはつがいとなると、片方が死ぬまで一生添い遂げようとする、その習性には夫婦愛が垣間見え、ヒナが生まれると子煩悩に育てようとする、その姿は、人間らしくもあり人間が忘れてしまった心を呼び起こさせるようである。タンチョウ、それは自然というキャンバスに描かれた、心を写す存在なのだ。

この作品を観終わったあと、あなたはタンチョウの動く姿に驚き、彼らの暮らす環境に目を見張り、そこで暮らす彼らの内面の美しさに酔いしれる。雑踏を離れた憩いの地がそこにある。

監督は、タイ人の留学生ジッティ・ウティカン・タナラット。降り積もる雪の地に足を踏み入れたことの無かった彼が鶴居で見てきた自然と人々、そしてタンチョウという存在。カメラを携えて捉えてきた映像は私たちに、より新鮮で直感的な感動を与えてくれることだろう。

作品の背景

タンチョウの生態について

芸術作品として日本絵画や、和歌に取り扱われてきたタンチョウ。その所以は古来では本州にも渡りをしており、日本各地でその姿は確認できていたからである。ところが明治期の乱獲により、一時期は絶滅をうたわれるまでになる。その姿が再確認されたのは大正13年のことである、釧路湿原の最奥部で十数羽のタンチョウがみつかったのだ。彼等はひっそりと湿原の中で生き延びていたのである。

鶴居村

人口2500人の村。村面積の3割に湿原を有している。冬には世界中からタンチョウの姿を拝むために観光客がやってくる。村では観光業の取り組みも展開されている。基幹産業は酪農であり、タンチョウたちは牛の餌をついばみに村の畑に姿を現すのである。昭和27年の寒さの厳しい冬、タンチョウたちは獲物が取れず飢えにあえぎ村の畑に降りてきたのだ、タンチョウと村の人々の共生生活はそこから始まったのである。

釧路湿原

湿原とは極端に水気の多いところに発達する草原であり、日本には233カ所存在する。北海道には日本全体の84パーセントに当たる湿原が存在し、そのうち最も大きいのが釧路湿原である。釧路湿原にはゆっくりと蛇行する川が多くみられ、血液を送る様に生態系を作っている。

群れで連なるように飛んでいくことから、ツルと呼ばれるようになったと言われる。(諸説ある)タンチョウは家族単位で行動をし、つがいと子供で行動をしている。そのため彼らの生活では親子愛や夫婦愛を垣間見ることが出来るのである。

キャスト

和田正宏

和田直子

和田貴義

中尾幹夫

スタッフ

プロデューサー:山本憲人

撮影:ジッティウティカン・タナラット

撮影助手:平田健太郎

録音:阿部拓、平田健太郎

構成:阿部拓

編集:ジッティウティカン・タナラット

ナレーション:山本憲人

監督: ธนรัชต์ จิตติวุฒิการジッティウティカン・タナラット

取材協力:ホテルTAITO、鶴居村役場、鶴居村役場建設課、鶴居村立下幌呂小学校、鶴居村立幌呂小学校、鶴居村教育委員会、鶴居村観光協会、鶴居村商工会、鶴見台、鶴居村ふるさと情報館 みなくる、鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ、野鳥の会、タンチョウ保護研究グループ、タンチョウ愛護会、釧路ウェットランドセンター、釧路市立博物館、大津つり公園、中尾牧場、日本製紙クレインズ、サルルンガード、下幌呂タンチョウえさづくり隊、吉田タクシー、食品スーパー ビッグフーズ ひろせ鳥取店

正富宏之、国安修一 、大津泰則、大津真弓 、麻生克彦、二瓶明紀 、中尾幹夫、中尾みや子、原田修、鈴木敏祥、音成邦仁、後藤昌美、山本啓一、服部政人、和田知慧、和田倫久、浦島良明、青山久美子、ブラジル・マーク、ブラジル・真弓、館山祐介、高崎宏史、若狭政信、新庄久志、久井貴世、能勢馨司、高橋良治、尾上寿紀、百瀬ゆりあ、貞國利夫、吉田守人、高野英弥、高田遼裕、黒下省吾

画像提供:鶴居村ふるさと情報館 みなくる、鶴居村立幌呂小学校、板橋区立郷土資料館、国立国会図書館デジタルコレクション

監督コメント

この作品を撮る前までは、私はタンチョウのことをなにも知らなかった。動物写真集やワイドライフドキュメンタリーで度々見て、綺麗だなと思っていた、そういう印象だった。

そして、タンチョウのことを調べはじめたら、北海道の東部、鶴居村というところの周辺に生息していることがわかった。もっと詳しく調べていたら、タンチョウと人間の関係、その歴史がとても興味深く感じました。資料を読めば読むほどタンチョウに惹かれた私だった。そして、気づいたら私は一冬を鶴居村で過ごしていた。

取材先である北海道の鶴居村に住み込み、母国には無い寒さを経験したり、住民の方々の温かさを感じたりしながら、約一年間取材・撮影を行ってきました。そして取材をしていく中で、今まで知らなかった、決して本や資料では書いていないタンチョウの歴史や鶴居村の歴史を学びました。

取材で出会った人たちの中で一番、私にタンチョウの魅力や素晴らしさを教えてくれたのは鶴居村出身・在住の写真家、和田正宏さんでした。和田さんの作品はタンチョウと鶴居村の美しさを私にたくさん語ってくれました。和田さんのタンチョウに対する愛情やタンチョウ写真の作品をつくることへの情熱に感動し、魅了され、映像作品として残したいと強く思いました。

この映画を通して、鶴居村で共に生きてきた村人とタンチョウの苦悩、強靭さ、生きるたくましさ、そしてその美しさ姿を、もっと身近に感じていただければと思います。

監督:ジッティウティカン・タナラット

メインビジュアル

鶴追人

予告編

受賞/上映