2005.07.04

Category:教員

「映画監督に必要なこと」天願大介(映画監督)

 

映画監督に必要な資質の一つは、食いしん坊であることだ。
演出とは欲望をエネルギーにして美を追究することで、食欲はすべての欲望の基本になる。
あなたは何を食ってもうまいと感じる奴が作った料理を食いたいと思いますか? 美味いものがちゃんとわかる監督と、コンビニ弁当で大満足の監督、どちらの監督の映画を観たいですか?

 

美味しさは感覚だから、文化や個人差が大きい。しかし同時に普遍的な美味しさというものも明らかに存在する。そう考えなければ料理が国境を越えて広がるはずがない。
では最も普遍的な美味しさとは何だろう。森枝卓士の本によれば、どこの国でも売っていて、つまりどこの国の人も美味しいと感じる味、それに近いのはケンタッキーやマクドナルドかもしれないという。
アメリカで売れた食い物は、全世界に売れる可能性が高いといわれるそうだ。アメリカは多人種多民族国家であり、そこで受け入れられたということは普遍性がある証明になるのだ。

 

まるでアメリカ映画のようだと思いませんか。
どんな人でもある程度美味しいと感じる食物はある。しかし物凄く美味しいか、それだけでずっと満足できるかというとそれはまた別な話。「美味しさ」は「面白さ」に似ていると思う。
マクドナルドのような映画を作りたいか、懐石料理のような映画を作りたいか、中華粥のような映画を作りたいか。何を目指すかは個人の好みと資質が決める。

 

いずれにしても料理人はあらゆる料理を食べ、研究し、作り、悩む、その結果として自分の味が見つかるわけで、売れるかどうかはその後のこと。自分の味が見つかれば、様々な料理に応用が効く。
だから私は貧乏な学生諸君にも、週に一度は無理をして美味いものを食えと教えている。自分がこだわる「美」を発見し執着することは、物を作る人間に絶対必要なことだからだ。有名な監督は例外なく(異常なほどの)食いしん坊である。
ちなみに「食欲」は「性欲」、「食いしん坊」は「スケベ」におきかえても何の問題もありません。

ページトップへ