2006.02.06

Category:OB

「心得」横山健太(NHK大阪放送局勤務)

 

先日、久々に学校を訪れてみると、すっかり様子が変わっていた。映像編集はAvid、音声編集はProTools。教室はすっかり電子編集機に占領されている。
思えば十数年前、まだ僕が在校生だった時に、学校に電子機器は無かった。デジタルと言えばDATとCDくらいで、その結線もアナログだった。
この時代に、僕はデジタルの信奉者だった。いずれはすべてのワークフローがデジタルになると信じていた。最新型のNECのノートパソコン (モノクロ液晶!) を学校に持ってきていたのは僕ぐらいのものだった。
時代が変わって、フルデジタルでの映像制作が可能になった現在、僕はと言えば職場で効果音のデータベース作りに励んでいる。僕自身いまだにデジタルの先頭を突っ走っているつもりでいる。でも、最近ちょっと心配になってきた。
機材がデジタル化され、昔なら膨大な手間と機材が必要だった複雑な編集も簡単に出来るようになった。学校を出たばかりの新人だって操作できる。でも、操作が簡単になった分「心得」をどこかに忘れてきていないだろうか。
自分の学生時代を思い出せば、ナグラはとても重い録音機だった。その重みは現場で唯一の録音機である事を主張して、その故障は撮影の中断を意味する。ナグラを車で運ぶ時には、その定位置は必ずシートの上か膝の上だった。トランクに入れるなんてとんでもない事で、大事に扱うものと教えられた。これは機材の扱い方の「心得」である。アナログかデジタルか、機械の価格が高いか安いかなどという問題ではなく、エンジニアとしての機械との付き合い方の「心得」である。
在校生の諸君。学校で習う事のうち、一番大事なのは「心得」だと覚えておいて欲しい。最新鋭の編集機の使い方なんかマスターしたって大した事は無い。だって、5年もしない内に次の最新鋭機がやって来てしまうのだから。現場で10年間仕事をする間に、5種類の音声編集機を次々に使ってきた僕が言うのだから間違いない。
上っ面だけの機械の使い方なんか覚えて得意になっていたって、メッキは簡単に剥げ落ちる。現場で働くために本当に必要なもの、日本映画学校に居る間に学ぶべきものは、映画の作り方の「心得」だ。モンタージュ論、イマジナリーライン、et cetera。いまだにデジタル信奉者である僕の一番の奥底で光っているのは日本映画学校で学んだ「心得」だった。実は最近になって発見した事である。

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