2006.05.01

Category:講師

「夢みるライオン」河本瑞貴(演出家・脚本家)

 

新学期早々、稽古は追い込みにかかっている。新二年生(20期)の下北沢・駅前劇場公演が控えているのだ。初日は4月28日!

 

このクラス、カリキュラムの改変によって俳優科が2学年制に変わった第一期生であり、全員で芝居をやるのは初めて。初舞台が駅前劇場という、なんとも無謀な試みなのである。
上演作品は、中場利一原作『ライオンは夢を見る──岸和田少年愚連隊伝説』。
10年ぶりに原作者の中場利一さんに手紙を書き、電話をした。再演の許しを乞うた
めである。
「映画学校ですけど…覚えてますか?」
「よう覚えてますよ。見に行きたいんやけどなあ、断れへん仕事かかえてヒイヒイ言うてるんですわ。どうぞ盛大にやってください」 実はこの舞台、10年ぶりの再演。

 

映画学校八期生の卒業公演として青山円形劇場で上演したのが最初だった。あの時、中場さんは劇場まで足を運んでくださり、打ち上げ会場では群がるガキ共の質問攻めにニコニコしながらつきあってくださった。
以来「岸和田」は、俳優科の大切なテキストの一つとなった。
春休み、中場さんの原作シリーズを読み直し、映画化された作品をVTRで観直した。
中場さんは、どの作品にもヒッチコックのように1シーンずつ、さり気なく登場して本職顔負けの芝居を見せている。昔見た時はご愛嬌やなあと思ったのだが…今回はちがった。
なんだか泣けるのである。
特に「望郷編」!
三池崇史監督の作品それ自体、紛うことなく名作である。が、1シーンだけ釣り人役で登場する中場利一がスゴイ。家出してきた少年時代の利一と小鉄たちに、人生の要諦を一瞬の会話で伝える。何かを悟った少年の利一たちは、家へと戻っていく。

 

泣けるのだ。
胸の奥がキュンとして、鼻の奥がツーンとするのである。
ああ、これか…と私は思った。
「岸和田少年愚連隊」の作品群には、喧嘩の向こうに胸キュンと鼻ツンがギッシリ
と詰まっているのだった。

 

よっしゃ、今度の舞台でも是非!
タテガミが半分抜け落ちたライオンとなって、私は今日も稽古場で吠えている。

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