2006.06.12

Category:OB

「雨の恵み」阿達加寸幸(俳優)

 

日本映画学校を卒業して、1年と2ヶ月。舞台に何回か出たのだがその後の予定はなく、バイトにあけくれる毎日だった。
そんな時学校から電話があり、中野裕之監督の短編映画のオーディションの誘いを受けた。日本映画学校の映像科のOBが製作に関わっているらしい。しかし、恥ずかしながら監督のことはよく知らなかったのでPCで検索した。
「・・・スッゲー!」 
華々しい経歴に、目が点になり硬直してしまう。オーディション用の台本を読みながらも、監督のことが頭から離れず集中できなくなってしまったのだった。

 

そして、オーディション当日。時間に遅れないように早めに家を出たのだが、会場の六本木に着くと、物凄い集中豪雨!
「傘持ってないよ~。ダッシュだ!」 
徒歩5分と聞いていたが、なかなかたどり着けない。結局、遅刻をしてしまった。
「やばい、しょっぱなからヤッちまったぁー」
ようやく会場に到着し、恐る恐る中に入る。
「遅れてすみませんでしたッ」
顔をあげるとそこにはテンガロンハットを被った中野裕之監督が、こちらをじっと見つめていた。監督は、息荒く、全身ずぶ濡れの男にオーディションを受けさせてくれるのだろうか・・・?不安で身震いしていると
「大丈夫?すごいビショビショだね」
と声をかけてくれ、無事オーディションを受ける事ができた。
「優しい監督だぁ~」
オーディションは台本の台詞を読み、それをカメラで撮るというもの。わりあいとアッサリ終わってしまったので、ちゃんと自分を見ていただけたのか不安が残った。

 

何日かしてバイトの休憩中、携帯電話が鳴った。プロデューサーの方からだった。期待と不安を抱きつつ出ると、
「アダチ君、合格したよ」
「えっ マジッすか?」
やった。オーディションに合格した。バイトの職場の人がウァーと拍手をして一緒に喜んで祝福してくれた。

 

短編映画の撮影は3日間行われた。現場の雰囲気は良く、あまり固くならずに演技することができた。
中野監督とお話をしている時に、オーディションに合格した理由を聞いてみた。
「目がいい。目がいやらしかったからだよ」
『チビ』とか『ヒゲが濃い』などと云われるかと思っていたので以外だった。

 

撮影終了から1年ほど経ち、久しぶりにプロデューサーの方から電話が来た。
「あの映画、カンヌで賞とったよ!」
『アイロン』が第59回カンヌ国際映画祭・国際批評家週間でヤング批評家賞を受賞したのだ。
ビリビリビリーッと、身体中に衝撃をうけた。出演した作品が評価を受け結果が出て本当に嬉しい。第一線で活動しているスタッフの方々と仕事ができたり、一緒に喜んでくれる人たちがいたことは自分の財産になる気がしました。これからももっと財産が増えるような経験をしていきたいです。

 

阿達加寸幸(あだちかずゆき)所属劇団 TEAM「JAPAN Spec.」(チーム・ジャパン・スペック)のホームページ
http://officeglobe.net/

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