2006.07.24

Category:学生

「『人間研究』を終えて」小山麻美(映像科1年)

 

「藤得ゼミ、A班、お願いします。」
発表会当日の担当はナレーションだったため、私は壇上に上がっていた。ついでにちょっとあがっていた。客電が落ち、ゆっくりとナレーションを読み始める。緊張は次第になくなり、あっという間の30分が終わった。この30分のために私たちは1ヶ月半、頑張ってきたのだ。そう考えると、時間が過ぎるのは無情にも早いなあ、なんて思ったりもする。
ネットゲームで恋愛。ブラジャーをする男。別れさせ屋。盲目の写真家。ハンセン病…。他の班の作品はユニークな研究ばかりだった。同じ1年生が作ったと思うと、刺激を受けた。

 

「人間研究」は、企画をひとりひとり考えてくる、というゴールデンウィークの宿題から始まった。人間を研究?初めはよくわからなかった。簡単に言えば対象人物を決め、その人を多面的に観察する。そして、写真やインタビューの録音、音楽、ナレーション等で30分の作品にする。合評会は一ヵ月半後。
私は小さい頃から興味があった「やくざの人」を対象人物に企画書を書いた。残念ながらその企画は通らなかったが、ゼミの中でふたつの企画が決定。ゼミは半分に分かれ、研究がスタート。
取材はインタビューから始まった。初対面の人にたくさんの質問をする。失礼じゃないかな、なんて余計なことを考えていては取材にならない。昔の話、その人が今考えていることなど、深いところまで引き出すのは難しい。私はできるだけ愛想をよくしようと、営業スマイル。
それから、街頭インタビューとアンケートも行った。通りかかった人に声を掛け協力してもらう。勇気のいる行為だったが、少しずつ慣れていった。

 

取材と平行してテープおこしをした。録音したインタビューを文字にする。これが結構大変な作業だった。1時間のインタビューを文字にするのに4~5時間は掛かるし、B5の用紙が10枚にも20枚にもなった。人が話す速さはやっぱり速い。しかも正しい日本語ではない。自分もそうかも知れないと思った。
大変だったのはそれだけではない。私が一番大変だったと感じたことは、班のメンバーとのコミュニケーションだ。皮肉にも私たちの班のタイトルは「Communication Breakdown」。「コミュニケーションの崩壊」とでも訳せるだろう。
先生に何度も指摘された。「お前たちのコミュニケーションはどうなっているんだ!?」その通りだった。班で話し合いをする際、私たちは議論することを恐れて自分の意見を言わなかった。だから話は進まないし、お互いがわからなかった。
自分の意見が否定されるのが怖かった。それにどれが正しいのか、どれが本物なのか、自分で見極める自信がなかった。だから人の意見にも何も言うことができない。しかしそれが正せることもなく時間は過ぎていく。

 

ある程度の材料が集まったところで、私は構成を担当することになった。インタビュー、ナレーション、写真、音楽がどのタイミングで出るのか、全て書いてある構成台本を書かなければならない。と言ってもよくわからなかった。悩んでばかりいたら、先生が助け船を出してくれた。乗るのを拒んだけれど、乗らなければ時間に間に合わない。悔しかった。
何とか出来上がった構成台本。読み直してみる。面白くない。いくらでも直すことができると言われ、再び練り直す。テープおこしとにらめっこ。何度もわからなくなった。私たちは何を伝えたいのだろう?

 

ただ、ひとつだけわかったこと。納得いくものを作り上げるのは、容易なことではない、ということ。
最後のナレーションはいつまで経っても決まらなかった。時間に追い詰められて、やっと自分の意見を言えた。そのとき初めて議論が出来た。意見を否定される。私も負けじと否定する。そして肯定もする。誰も正解を知っているわけではない。というか、正解なんてない。意見を持つ。そして話し合う。そこからみんなで何か見つければいいのだと思った。それが何だか楽しかった。いいものを作ろうという思いは同じだと感じた。
構成台本を作るのに私たちは寝る時間を削った。それは今までにないことだった。テスト勉強だって、せいぜい夜の1時頃までしかしなかった私が、朝から夜中まで構成台本を考えている。でも、不思議とやめたいとは思わない。そのときはっきりとわかった。今、私は好きなことをしているんだな、と。
結局、構成台本が出来上がったのは本番1時間前だった。

 

たくさんの仲間と一緒に作る、と言うことは簡単ではない。しかし、知らないところでいい写真を撮っていたり、インタビューを上手くつなげていたり。仲間がいたから作れたのだと、それが手に取るようにわかる。
合評会では講師の先生方にとても厳しい評価をいただいた。なるほど。としか思えなかった。ぼろくそに言う先生がほとんどだったが、ひとりの先生だけ、ちょっと褒めてくれた。素直に嬉しかった。
まだまだなんだな。まだまだ成長できるんだな。そう思ったら、これからが楽しみになってきた。そしていつか、この人たちを黙らせてやろう。

 

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