2007.01.15

Category:学生

「新百合ヶ丘から遠く離れて」今川 和広(映画演出コース3年)

 

2年次の短編映画実習(1500フィート実習)で監督した「小林くん」がオーストラリアのシドニーで開催された豪日映画祭の学生映画フォーラムに出品された。昨年の12月の出来事だ。当初、いろいろと事情があって行こうか行くまいか迷ったのだが、自分の監督した作品が海外の人に見てもらえるなど、またとない機会。行こうと決心したのが映画祭の10日前。パスポートを申請して発行されたのが出発の2日前。ドタバタと日本を飛び立った。

 

「小林くん」という短編映画。実をいうと、初監督作品だった。それゆえ思い入れは強いのだが、はっきりいってうまくできた作品ではない。映画が好きだという理由だけで、高校を出て日本映画学校に来た小僧が、熱意だけで撮った映画だ。さかのぼること1年前の撮影中、カット割りがわからなくなってカメラマンを困らせたり、訳のわからないことを言って女優を怒らせたり、そんなこんなでプロデューサーや助監督に怒られたり・・・。毎日、ゲロって青い顔で撮影現場に通っていたのを記憶している。映画という得体の知れない怪物に立ち向かい、悩んだ、苦しんだ。それまでの人生で間違いなく一番頑張った。だからだろうか、僕はこの「小林くん」という作品が自分の子供のように可愛くて仕方がない。思い返せば、あの地獄の撮影期間も良い思い出だ。

 

学生フォーラム当日の会場は大盛況で、平日にも関わらず劇場はほぼ満員。オーストラリアの映画ファンがたくさんいる。「小林くん(洋題 Little Woods)」は、なんとトップバッターだった。自分の映画が上映されるというのは、胸の中がなんともいえない緊張と恥じらいでいっぱいになるものだ。普段は劇場用映画が上映されるような大きなスクリーン。脇から嫌な汗が出てくる。とはいえ、映画は始まってしまう。緊張と恥じらいがピークに達して、むしろ気持ちいいくらいになってきたころだ。笑い声が起きた。

 

・・・すごい!

 

そう、思った。最初の笑いどころで、観客はドッと笑ってくれた。安心した。つかめたと思った。よく海外の映画ファンはリアクションが大きいといわれるが、それは本当だった。オーストラリアの観客達は、細かなところで笑ったり、ため息を漏らしてくれる。そういった観客たちの生のリアクションは、何にも代え難い最高のご褒美だった。
映画にとって、一番の幸せというのはたくさんの人々に見られるということだと思う。このままだったら、日本映画学校のフィルム倉庫に保管されたまま一生を終えていたであろう「小林くん」に字幕がつき海を渡り、オーストラリアに住む人々に見てもらえた。素晴らしいことだと思う。

 

人に何かを伝える、感動させるということは、並大抵のことではない。しかし、少しでも誰かに何かが伝わったとき、そのときの気分が最高で表現することはやめられない。オーストラリアの人々に最高のご褒美をいただいた。努力は報われる。だから僕は頑張れる。

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