2007.05.21

Category:OB

「根無し草になれ」小山 保徳(アニメ制作会社勤務)

 

日本映画学校の中で、僕が選んだのは「美術ゼミ」。そこで僕は立体アニメーションを作っていた。今思えば人間を描くことに重きをおいていたこの学校の中で、そのゼミは浮いていた。だから、授業は屋上に建てられたプレハブ小屋だった。しかし、そんないわば学校からはみ出したような教室は、僕には実に居心地が良かったのだ。晴れた日は目下に広がる新百合ケ丘を見ながら本を読んだし、雨の日には雨風にさらされながらセットを組んだ。そこで所謂“青春”を過ごしたのだ。そんな心地よい隠れ家のような教室を僕は卒業した。卒業制作に没頭するあまり、就職活動が手につかず、勧められるがままCMの制作会社に入った。そのことはとてもラッキーな出来事だったのだが、当時はそんな事に気づくはずもなく「自分がやりたい事」なのかわからず、ほどなくして辞め、自主制作で映画を作っていた。「ここから新しく映画人生を歩みだすのだ」と意気込んでみたが、正直なところ、てんでうまくいかなかった。時が経つにつれ漠然とした将来の不安がつのった。つのりすぎて遊ぶことにした。そんな時、突然あの隠れ家の主である先生を訪ねた。(今思えば、どうして先生の所に行ったのかはうまく思い出せないのだが)先生は、僕の話を聞くと小言も一切なく、「根無し草になれ」と言った。それが、路頭に迷っている若者にかける言葉なのか?とも思ったが、先生に相談して良かったと思った。こんなおもしろい大人がいてくれるのを心強く感じたからだ。
「根なし草になれ」それが学校で教えてくれたことなら、それを実践するしかないじゃないか。という訳で根なし草になるべく日々を過ごした。

 

それから、数年。僕は30歳になり、アニメ会社にいて、映画を作っている。あの言葉の真意を僕が本当に理解しているのかは、今もよくわからない。でも、もし次に先生に会う機会ができたなら、あの言葉の真意を聞いてみたくもある

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