2007.12.24

Category:OB

「見る前に飛べ!」李相日(映画監督)

 

やりたいことが何もない。大学卒業間近。もうすぐ社会に出なきゃならない、てのに。
これは焦る。真剣に焦った。
多分誰しも味わうだろう社会に放り出される恐怖。型にはめられる嫌悪感。
目の前には先の知れた未来。そこから逃げだしたい。
ただ、毎日をやり過ごしていたくせに今更後悔しても遅い。いや、遅くないか…

 

生まれて初めて親父に土下座した。
その甲斐あってか、一年目だけ学費を払って貰う約束をとりつけて家を追い出された。
そうまでして本当に映画をやりたかったのか?
“いきおい”てやつ。けど、一度口に出してしまった以上もう引っ込みがつかない。
基本的に飽きっぽい性質だし、何かに一心不乱にのめり込んだ事も無い。
そんな奴に何が出来る?
監督なんて「才能の塊」みたいな奴がやるもんだと思ってた。絶対無理。
そうだな…プロデューサーがいい。関係ないけど一応経済学部だったし。なんとなく自分でもやれるかもしれない。
一番偉そうだし、カタカナってのもいい。

 

映画学校に入る前、よく暇つぶしに観てた映画はトム・クルーズやシュワルツネッガーが出てくるハリウッドモノ。
ちょっと古いところでポール・ニューマンやレッドフォード。
ヨーロッパやアジアの“名作”なんて観たことあったっけ?てな具合。
まして、日本映画を劇場で観たのは『ドラえもん』まで遡らなきゃならない。
「ゴダール、て知ってる?」
「いや、知らない」
「じゃ、フェリーニは?」
「ああ…F1のドライバーだっけ?」
これはヤバイ……
それから“名作”と言われる映画をなるだけ見た。古今東西。日本映画の巨匠たちも。
『復讐するは我にあり』『七人の侍』『雨月物語』『浮雲』……
「ヤベェじゃん…」初めて、“映画”に触れた気がした。
「監督になりてえ!」初めて、そう思った。

 

たった10年。自分の予想をはるかに超えたスピードで、今の場所に立っている。
もうどこにも逃げ場は無い。だからしがみ付いていく、映画に。ずっと。
映画は怖い。何でもお見通しだ。僕が本気なのかどうか、いつでもその覚悟を量っている。
それでも、自分の限界を超えて向かい合ったとき、作品が最高の癒しを与えてくれる。
どこまでいけるかは分からない。でも、息絶えるまで突っ走ってやる。
誰かにモノ言えるなんて思わないけど、先輩面吹かしてただ一言だけ。
“見る前に飛べ!”

 

(日本映画学校 映像科11期生)

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