2008.04.01

Category:講師

「まずは好奇心」佐々木史朗 (映画プロデューサー)

 

先日、佐藤忠男校長に若いころはどういう勉強をしておられたのでしよう、読書でしようかねと尋ねましたら、いや何もかも知りたいと思ってもそうはできないから、まず好きな本を見つけたらその作者の他の作品を探す、さらにその中に作者が強い影響を受けたと書いてある作品があればそれをを探す、そんな具合だから広範囲に知識を求めることではなかったと思います、とのお答えで、なるほどそれでいいんだと納得しました。

 

一本の樹をみつけて登っていったら、思いがけぬ太い枝があったり、妙な形の葉がみつかったりするようなものでしょうか。地上から林全体を見渡して、すべての樹を見たというのが知識になるわけではないと思うのです。

 

少年のころ私は、英雄にまつわる話が好きで近くの物知りおじさんから吉川英治の「三国志」を借りて読んだ覚えがあります。理解できない言い回しや単語が多いのですが何となくその言葉を生むもとになった人間ドラマの雰囲気が好きだったのでしよう。「死せる孔明、仲達を走らす」だの「桃園の誓い」などです。吉川英治も独学で漢詩を読み込むところから中国古典史へと進んだ結果が「三国志」だったと聞きました。

 

私の仕事は映画のプロデュースなのですが、このところ忙しさにかまけて映画を観る回数が減ってきています。年に100本というところでしょうか、それも30%くらいはDVDで観る始末です。
でも、前の理屈でいえば映画を自分の仕事にするためにすべての映画を観る必要はない、問題なのは、直感的に面白いはずと思った一本の映画の樹をよじ登ると何が見えてくるかだよと自分勝手に正当化しているのが現実です。

 

その私が昨年観た映画でたいへん面白かったのは「007カジノロワイアル」と「善き人のためのソナタ」でした。気になりながら未見なのは「長江哀歌」です。
いま日本映画学校で映画を学ぼうとする学生のみんなに、まず自分にとって気になる他人の作品は何だろうか、それを探してほしいと思うのです。実習制作は自分の内実と向かいあう、とても興奮できることですが、他人の内実の表現の結果を作品の中に見つけ出すことも経験してもらいたいと思うのです。

 

(日本映画学校理事長)

ページトップへ