2008.09.16

Category:講師

「地デジ 超簡単考察」浜口文幸(映像ディレクター)

 

この夏、北京オリンピックが終わりました。興味のある人もそうでない人も折に触れて少なからずテレビ観戦をしたことでしょう。
その時、皆さんはどんなテレビで見ていましたか。今まで家にあるブラウン管テレビで、地上デジタル放送やBS放送のハイビジョンを大型プラズマテレビや液晶テレビで、携帯電話のワンセグテレビで、応援する多くの人と一緒にビデオプロジェクターで、街頭の巨大画面で、インターネット動画をパソコンで…等々。
あらゆるテレビサイズ、あらゆる画質で見たことでしょう。
そこで展開された北島選手や女子ソフトボールの戦いに「いわゆる」興奮し、野球代表やサッカー日本代表に落胆したりしました。
しかし、その興奮と落胆に見ていたテレビの違いがどれほど影響したでしょうか。
もちろん、真剣にテレビに向かって応援していた人と、情報収集的な見かたをしていた人では、温度差はありますが、答えはほとんど関係がないといえます。
要は中身です。スポーツの持つ筋書きのないドラマ的進行と生中継の同時性が興奮と落胆を引き出したといえます。これは、テレビなどの放送がもつ特性であり、過去も現在も未来も変わるものではありません。

 

2011年7月24日、「従来のアナログテレビ放送が終了し、地上デジタル放送に完全移行する」といったことがいろいろな媒体を通してアナウンスされています。
現在は、移行期間ということで、今まで見てきたテレビでも、新しく買って設置したハイビジョンテレビでも、そのどちらでも見ること(受信すること)が出来ます。これは簡単に言えばその両方の電波をテレビ塔(首都圏では東京タワー)から送出し受信しているからです。
これを、2011年7月24日以降は今まで見てきたテレビで受信できる電波(アナログ波)の送出を止めて、新しいハイビジョンテレビで受信できる電波(地上デジタル波)だけにしようということです。

 

映像の制作現場では、この10年ほどでPCの急速な性能進化と並行するように、高画質、高品位な映像を目指しデジタル化が進みハイビジョンという規格が実用段階に入りました。
映像制作者の立場から言えば、大枠では画質が向上することは歓迎すべきことです。また長い目で見れば、いずれハイビジョンも含め、あらゆる映像の画質が向上し従来のものから置き換わっていくことに特に異論はありません。

 

この高画質、高品位なハイビジョン映像はデジタル信号であり、パソコン的言い方をするならデータ量が大きいため、そのままでは従来の電波には乗せられません。そこで電波をデジタル化したり、送出する電波の周波数を変更したり、首都圏では新しいテレビ塔(東京スカイツリー 2011年12月竣工)を建てたり、そして何よりもその電波が受信できる新しいハイビジョンテレビを製品化し、それを買ったりと、まあ根本からインフラを構築しなければならないのです。これが、地上デジタル放送なのです。そこへ「大は小を兼ねる」的理論を持ってきて、アナログ波を停波し、地上デジタル波だけにしようというのです。
要は「全取っ換え」なのです。そしてこれは国策です。
すでにイタリアではアナログ波を停波しているが、諸外国に比べて特に遅いわけではありません。が、しかし問題は山積です。
日本の世帯におけるテレビの普及率はほぼ100%、すでにケーブルテレビなどでの対応を含め移行が終わっている世帯を除いても、未対応世帯の数は膨大です。
多くの地方では、地上デジタル放送が使用する周波数(電波帯)が、今まで使ってきたUHF波(13ch~62ch)と同じであるためアンテナの流用が出来るものがあるのでテレビを買い替えるだけで済む場合があるが、主要都市部ではVHF波(1ch~12ch)を使っているためテレビを買い換えるだけでなくアンテナもつけ替えなければならないという問題…。
現在対応が出来ている世帯でも、新しいテレビ塔が運用を開始すればその方向にアンテナの向きを変えなければならないという問題…。大量に廃棄されるブラウン管テレビのゴミ処理問題…。最近運用が始まった緊急地震速報は、このシステム全体がデジタルであるために実際の時間より約2秒弱遅れるという悩ましい問題…。低所得者世帯への対応…等々。
そして、そもそも間に合うのか、延期する必要があるのではないのか。そんな囁きさえ聞こえてきています。その際、誰がどの段階で発表するのか。責任問題はどこへ…。
その時テレビ局は、例えば年金問題で社会保険庁を、食品偽装で農水省をやり玉にあげるような報道を、放送認可を付与されている総務省に向けてやれるのか、これは少し見ものではあるが…。
おそらくは、直前で相当のドタバタ劇が待っていることでしょう。

 

さて、本校に視線を移しこの問題を見てみると、これはハイビジョン化への対応ということになります。すでに撮影、編集機材の導入は始まっており、ビデオでの実習は段階的にハイビジョン制作に移行しつつあります。しかし、当然のことながら、脚本演出を含めた映画基礎を学ぶ上では、必ずしもハイビジョンである必要はなく、16mmFilm制作、従来のビデオ制作など、「要は中身である」といった実を取る弾力的運用になるでしょう。
ただし、技術部的側面はしっかりと学生たちに教えていかなければならないことは学校としての責務といえます。劇場用映画の分野でもデジタルハイビジョン化は進行しつつあり、これにも対応していかなければなりません。
本校の卒業生は、映画関係だけでなく、放送関係にも多数就職していきます。
すでに卒業した学生たち、現役の学生たち、これから本校に入学してくる学生たち、その多くがこれから来るであろう放送、映画(映像)業界の喧噪に巻き込まれていきます。
卒業生や学生諸君には、どのポジションでの仕事であろうとも、是非どん欲に情報や技術を吸収習得し次世代を担っていってもらいたいと思います。

 

(日本映画学校 映像科技術担当講師)

 

 

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