2008.10.07

Category:OB

「異物と交われ!」平野正樹(モデル・俳優)

 

日本映画学校・俳優科を卒業して、はや六年。
今は、エクスィードアルファと言うプロダクションに所属し活動を続けている。
15期生として日本映画学校に入学したのが18歳の時。
右も左も分からぬ田舎物が、映画に出たいと言う思いだけで、遥々九州からやってきた。
俳優科、響きはいい。
いざ入学!
蓋を開けてみると、なんと言うか、多種多様で驚いた。
まじめそうな奴もいれば、もうすでにドロップアウトしてます!って奴がいて。
やる気満々って奴もいれば、2日目からしばらく学校に来ない奴もいるし、
聞いたことのない方言で喋りまくってる奴もいれば、オタクっぽい奴もいる。
だけども、みな一様にギラギラしてると言うかエネルギッシュな感じがある。
ちょっと想像とは違う顔ぶれ。
なんか人種の坩堝ってのじゃないんだろうけど、しばらくは、肌に馴染まない異様な空間に感じられた。

 

けれども、とりあえず気が合いそうなやつを探して、つるんでみた。
高校かなんかのクラス換えみたいに、なんとなく同じ匂いする連中どうしで和ができていて、みな話をしている。
ごく当たり前の流れで、当たり前ことだ。
入学して、農村実習も終わり、いよいよ演技実習がスタートした。
題材は、いきなりの戦争もの。
台詞をただ大声で叫ぶもの、ひたすらかっこをつけるもの、その場だけの笑いを取ろうとするもの、みな大真面目にやっている。
わけもわらず、始まったのはいいものの、人それぞれまったく違う世界観で演技と言うか、それらしきものをやっていた。
そんな中、入学して一ヶ月が経とうかと言う日、ある演出家からこんな言葉が投げかけられた。
「お前達は、もっと異物と交われ。」
異物?
当時この言葉の意味を全員が理解していたかどうかは定かではないが、それぞれ何かしら考えていただろう。
結局、そのとき自分なりに出した答えは、
「いつも同じ連中とつるんでないで、話の合わなそうなやつ、価値観の合わなそうなやつに無理矢理にでも話しかけ、交流しろってこと。」
自分とかけ離れてたり、関係がないような人に興味を持て。
つまり人に興味を持てってことなんだなと。
確かに、同じような価値観の人間とばかり一緒にいては、役の幅が拡がっていかないな、と思った。
味覚に置き換えるなら、いつも同じもの、好きなものばかり食べていても舌は肥えない。
と言う感じだろうか。
なんでもそうだろう。スポーツだって、勉強だって、弱い相手や簡単な問題そればかりでは、次のステップには進めない。

 

演じる、表現すると言うことの中には色々な要素が要求される。感性、経験、技術。
「考えろ!考えて、考えて、考えて、考えて、そして最後に感じろ!」
口酸っぱく言われ続けた言葉だ。
技術は鍛えれば習得できる。感性は生まれもったものがあるが、経験しだいで変化もする。
では経験とは。
「異物と交われ。」
過去どれだけの人に会っただろうか。顔は知っているが、話したことはない。普通は大体そんなものだ。
それが、顔を知っている人は、老若男女分け隔てなく趣味まで知っている。
それぐらい、他者と交流ができれば、生きている世界が変わってくるだろう。
無論、若い時に、分からぬ者と話すのは勇気がいることだ。
だが、目指すものがあるならしょうがない。
覚悟を決めて、積極的に話しかけるしかないだろう。

 

最後に、日本映画学校に入学を希望される皆様へ。
この異物と交わると言うことは、社会に出れば少なからず要求されます。
みな一様に体得し、他者との交流を図ります。
しかし、私が求めるものは若い時期の異物との交流です。
学校で喋ったことのないクラスメイトや先生、近所のおじさんおばさんや、よく行くお店の店員さん・・・。
見わたせば、結構いるはずです。
私も、地元にいた頃に、あの人ともっとよく話しとけばな、と思います。
そんな風に、いろいろな人との交流を経験して、交流する力を身につけてから演技の勉強がスタートできれば、
映画学校での時間が、より充実すると思います。

 

(日本映画学校 映像科15期生)

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