2008.10.14

Category:OB

「映画『ブリュレ』との邂逅」早坂伸(カメラマン)

 

2005年3月、とある現場でチーフ撮影助手をやっていたときのこと。「しばらく自身の作品を撮っていない。そろそろカタチとして残さなければ」と漠然と思っている時に運良く(悪く?)、同級生(11期)だった林田賢太氏から電話が来た。

 

林田「元気ですか? 今度自主映画撮るんだけど…カメラマンが降りちゃってですね、早坂さんに頼めないかなと思って」
早坂「ふ~ん、大変だね。話次第だけど…で、いつから?」
林田「来週の○日」
早坂「へ!? 急だね、もう何日もないじゃん!? で、何日くらいで撮るの? 3日? 5日? 1週間?」
林田「…」
早坂「もしかして10日? 自主映画としては大作だなぁ(ちょっと腰が引ける)」
林田「…(沈黙5秒)…ん~ひと月半かなぁ」
早坂「…(沈黙15秒)…」
早坂「ひと月半…なんでそんなに掛かるわけ? 自主映画ならせいぜい1週間ぐらいに納めないと」
林田「いや~実は双子の女の子のロードムービー撮ろうと思ってて。秋田の能代をベースにして、京都、広島と撮影しながら南下しようかと…」
早坂「…………(しばらく沈黙)」
林田「…一応、ホンを読んで考えてみてください。あと昨年の夏にデモフィルムを撮っているので見て下さい」

 

そのデモテープには、余りにも可憐な双子の姉妹が写し出されていた。撮影者ならわかると思うが、こういった“煌めき”というものは永続しないものである。この双子を撮るのは今しかありえない——そう思った瞬間「ブリュレ」への参戦が決まってしまったのだ。

 

当時妻は6月の出産を控えた身重の状態。そこで自分はプロとしての線引きをする。
「ひと月半と言ったね。じゃあ4月の10日まではやる。それ以降スケジュールが溢れた場合は僕は撮らない。自主映画はスケジュールがなし崩しになりがちだからね」
製作サイドにプレッシャーをかけ、スケジュールを死守させるつもりだったが…。

 

自分の車を自走させるため、春なのに冬タイヤに履き替え、チェーンも用意。照明機材を知り合いの技師から無償で借り受け、映画学校からも照明機材、移動車を借りる。機材車(兼製作車)を木で底上げして、上にある機材を降ろさなくてもレールを取り出せるように改造したり…。

 

言ってしまえば“大人の卒業製作”である。

 

結局、想像以上の苦難、トラブル続きだった。毎日が自分の限界との戦いだった。スケジュールも案の上オーバーし(というかその後3ヶ月くらい撮影してた!)、カメラマンを後輩の加藤哲宏氏に受け継いでもらった(その時の話は彼のコラムで明らかになるだろう)。

 

どうにかクランクアップし、不完全形ながらも完成披露もやり、自分の責任は全うしたかなと自負していた。

 

——まさかその後、自分が宣伝や営業をするはめになるとはこの時は知るよしもなかった…。その話はまた別の機会にでも。

 

(日本映画学校 映像科11期生)

 

『ブリュレ』

2008年10月25日(土)より渋谷ユーロスペースにてレイトロードショー
監督/林田賢太
出演/中村梨香、中村美香、平林鯛一、瀬戸口剛、小田豊
配給/シネバイタル
配給協力/ゼアリズエンタープライズ
>> 公式サイト

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