2008.11.04

Category:OB

「続・映画『ブリュレ』との邂逅」加藤哲宏(撮影)

 

もう3年半も前になる2005年の春、一本の自主映画に参加した。理由はカメラマンが早坂伸さんだったからだ。映画学校の先輩であり、在学時、金字塔のように輝いていた卒業制作「青~chong~」の撮影を担当され方にお近付きになりたかったのだ。ただ僕が参加したのはインしてから3週間ほど経っていた頃で、聞けば製作陣は秋田、京都、広島を廻って来たという。物語の内容は、放火癖のある双子の姉妹が13年ぶりに再会し、秋田から鹿児島まで旅をするというもの。日本を縦断しながら家が2回くらい燃える。
「自主映画なの、この内容?」と天を仰いでしまった。

 

しかし早坂さんは前もって決まっていたスケジュールの為、残念ながら4月の前半で現場を離れる事になった。映画はあと40%ほどを残してそのまま空中分解、とはよくありがちな話だが、それまでに撮影された素材、とくに雪のシーンは非常に美しかったし、自主映画と商業映画の違いも分からない映画初出演の主演の姉妹が信頼してくれた「映画」というものを、何とか形にして見せてあげたかった。斯くして僕は早坂さんの後を継いで撮影を担当する運びとなったのだが、これが長い闘いの始まりだった。

 

「やります」という言葉には最後まで面倒を見るという覚悟が含まれる。自分の名前が出る物に関しては半端な関わり方は出来ない。しかし自主映画という代物には現場の体制作りがしっかり確立されてない分,スタッフにのしかかる負担はかなり大きい。
主演の2人は大学生活が始まってしまい、撮影は週末のみ。その都度車と機材を借りにいく。映画は冬の設定なのだが、道行く人々はどんどん薄着になり、木々の緑も濃くなっていく。当地であれば堂々と引き画を撮れるのだが、僕が担当したのは現地での取りこぼしや、スケジュール調整の隙間の漏れたものが多く、5・6・7月の関東で冬の能代、春先の広島・鹿児島を再現させなくてはいけない。早坂さんが既に撮ったショットに馴染むかがずっと心配だった。しかも「ケン・ローチ好きですよね?」と即座に分かる早坂さんの画に対して、マイケル・マンやトニー・スコットなどが好きな僕は、主張しない「観察眼」的なカメラを確立する必要もあった。早坂さんだったらどう撮るだろうか、と同じく映画学校の先輩である監督の林田さんと随分話しながらカメラを回した。
何度か現場を訪ねて来て下さった早坂さんは、自分の魂を削った作品を後輩がどう扱っているのか心配だったはずだし、監督の林田さんも同様だったと思う。そして演じる側の役者さんはカメラマンが何人も変わるという事態に困惑したはずだ。

 

その他、本作の場合およそ自主映画に必要な労力は全て使ったと思うが、みんなが協力し合い本当に真心を込めて撮ったな、と思う。自分が動かなければ何も起こらないのが自主映画だし、込めた思いがそのまま画面に表れるのも自主映画だ。僕らは主演の双子の姉妹の輝きを確かに捉え、映画という宝石箱の中に包み込んだと思う。
輝きと言うか、タイミングのような話をすれば僕自身に関しても同じで、その時にしか撮れない画というものが確かにあると思う。確かに脚本・スタッフ・諸条件で上がりの画は全く違ってくるが、その時々の自分の趣向や考え方や経験というモノもかなり画を左右する。
そして自主映画は自分を測るいいバロメーターになる。こういう場で自分の腕を試してみて、技術、人脈、コミュニケーション能力、そして映画に対する姿勢など、今後どういう部分を補っていかなくてはならないのかが良く分かる。早坂さんには技術もさることながら予算やスケジュールに対する考え方をよく教えて頂いた。とても重要な要素である。

 

去る25日、映画は初日の幕を開けることができた。制作に関して、そして公開に向けて尽力して下さった方々にお礼を申し上げるのは勿論、どうか一人でも多くの皆さんに劇場に作品を観に行って頂きたく思います。

 

(日本映画学校 映像科16期生)

 

『ブリュレ』
2008年10月25日(土)より渋谷ユーロスペースにてレイトロードショー
監督/林田賢太
出演/中村梨香、中村美香、平林鯛一、瀬戸口剛、小田豊
配給/シネバイタル
配給協力/ゼアリズエンタープライズ
>> 公式サイト

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