2008.12.23

Category:学生

「弟よ」加藤亮太(映像科1年)

 

本校に入ってから、弟と二人暮らしをしている。弟は、大学一年生。私も一年生で、立場は同じである。

 

二人で物件を探し回っていた今年初旬のある日、不動産業の方に身の上を訊かれた。
私は、会社を辞めて映画を勉強しに学校に通う、と答えた。その方は私と歳が近く、親近感を醸し出していたので、話しやすかった。
実際、映画の道を選んだことに、お世辞だろうが、理解・羨望の態度を示してくれた。

 

だが、私はたじろいだ。彼は弟に「お兄様の行動には応援しているんでしょうね、いいですよね」と、尋ねるでもなく話を振ったのである。
私は、訊いたことがなかったのである。弟に、私の進路のことを相談したこともなかった。
長男坊の私と、次男である弟という関係からも後ろめたい気持ちもあったのかもしれない。
「応援してないです。いまだに、兄の選択は間違いだったと思っています。」
弟は、見慣れぬ景色を眺めるフリをして、言い放った。不動産業の方は返す言葉を失った。

 

弟よ。向こう見ずと叱られても仕方ないこの兄のせいで将来に関して安定志向にならざるを得ない弟よ。
弟よ。会社を裏切り、家族を裏切り、お前まで裏切っていたことをやっと知るふがいない兄を持つ弟よ。
駄兄は、それでも映画の道に進むつもりである。どうしても諦められないものがそこにある、弟よ。

 

小谷承靖先生の指導の下、二学期の映画実習を先日終えることができた。小谷監督に、怒鳴られ、蹴られ、殴られそうにもなりながら、ただ必死にひたすら這いずり回っていた。あんなに他人に叱られたのは、この二十四年間の中で初めてだった。それは、涙が出るくらい嬉しかったようにも思える。学んだことはなんだ? と問われても、うまく説明できないが、持ち得る感覚をすべてフル活用させて生きていたことは確かだった。

 

映画実習終了後、落ち着いた休みもとらず、すでに学校からのミッションに取り掛かっている。私のゼミ長という立場だから感じるのか、クラス全員が、ミッションに臨む意欲に満ちている。向かい討つ覚悟である。来るものは拒まず。来るなら来い。休日などむしろ退屈である。

 

弟よ。本校での濃密な三年間を修学したその将来、私は、きっと私が携わった作品をスクリーンで君に見せる。「兄、間違っちゃった」と言わせないようなものを。それが、映画を諦めない大きな理由のひとつなのである。

 

(日本映画学校 映像科23期生)

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