2009.09.15

Category:学生

「父」長谷川卓也(映像科3年)

 

「そんなに好きなら、作る人になれば」

 

四年前、毎日のように父親の部屋に入り浸り、最近観た映画の話を熱く熱く、うんざりしている父に語っていた時に、突然言われた言葉だ。

 

今思えばその一言がキッカケで、私はこの学校に通っている。親の反対を押し切ってとか、親をなんとか説得して入学している人に比べて、なんと情けないキッカケだろうか。

 

でも、なんで父は背中をおしてくれたんだろう? 「俺には、夢なんかなくて、ただぼんやりと今の職業についたからな、そんなんじゃつまらないだろ」と答えてくれた。

 

父は、パン屋で働いている。夜中の十二時に家を出て、忙しい時には昼の二時まで、ノンストップで働いて帰ってくる。父はパンをそんなに好きじゃない、口癖は「日本人はパンよりやっぱり米だろ」、どうしてそれなのに仕事が続けられるの?と聞いた事がある。

 

「お前が生まれてから忙しくなって」笑いながら言った。申し訳ない。

 

仕事だけではない、ここ数年の父は、病院通いをしている祖父や祖母の世話もしているし、たぶん友人の父親達の間では、一番じゃないかと思うぐらい家事も担当している。また私がえらいトラブルメーカーで、よく父親にトラブルの収拾に走ってもらってた。

 

今思うと、日々過酷な父親なのに睡眠時間を削ってまで、熱く映画談義によく付き合ってくれたものだ。

 

「本人の人生だからな、反対はできないよ」と、映画の道に進む事に反対している祖母を、父は説得してくれている。

 

実習で、落ち込んでいる時に限って、なぜかタイミング良く父から「頑張ってるか?」電話が来る。普段お酒なんて飲まないのに、飲まないと恥ずかしくて電話が出来ないのかろれつが怪しいが、心が折れそうになっている自分を叱咤激励してくれる。

 

先日、祖父が亡くなって、お葬式のため久し振りに再会した叔母がこっそり教えてくれた事がある。

「お父さん、電話で失敗したって言ってたよ」「どうして?」「地元に残って、親の面倒をみるように育てればよかったって、寂しいって言ってた」と笑いながら、教えてくれた。

 

本当に趣味が少なく、仕事と家事しかしない父に「趣味つくれば」と言ったら、「昔は音楽とか映画、沢山見たり聞いたりしたんだけどな」たしかに昔、家には何千枚とレコードが置かれた部屋があった。

 

「なんでやめたの?」

 

「お前が生まれてから忙しくなって」と笑いながら言った。申し訳ない。

 

恩返しするには、面白い映画を作るしかないなと、決意を固めようとはしているのですが、父の映画センスは……。

 

ゴッドファーザー 嫌い、タクシードライバー 嫌い、ダーティーハリー好きな父の為に、アカデミー賞とったミリオンダラーベイビーを観せたら「あまりのつまらなさにイーストウッドを嫌いになった」

 

映画学校生は真っ青ではないか。

 

ちなみに自分が監督した作品も観せたら「つまらん」と一蹴された。映画センスのない奴め!

 

いつか、父親を感服させる映画を撮り、恩返しするために、まず最低でもコッポラ先輩とマーティン先輩とイーストウッド先輩を超していかないといけないなと、決意を新たにこれからも頑張ります!

 

(日本映画学校 映像科22期生)

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