2009.12.08

Category:OB

「イサク、ヘクトパスカル、結び目」 港 岳彦(脚本家)

 

12月15日(火)~17日(木)まで、渋谷シアターTSUTAYAで、脚本作『ヘクトパスカル 疼く女』(監督・亀井亨、主演・穂花)http://hectopascal.doorblog.jp/ がレイトショー公開されます(21時~)。僕も毎日劇場でお手伝いしているので、気軽に一声かけてください!

 

05年、『ちゃんこ』(山田耕大さんと共同)で念願の脚本家デビューを果たした後、僕の生活は悲惨だった。何本かの脚本作りに取り組んだが、どれも映像化されなかった。仕事の依頼など皆無。「ちくしょう、まだ始まってもいねえよ!」。僕は脚本家志望の青年に逆戻りした。数々のコンクールに応募した。全滅。気がつけば三十代も半ばである。不安と失望と鬱屈の内に何もかもが終わってしまいそうだった。

 

ところが08年の夏、『イサク』というシナリオが「ピンクシナリオコンクール」で入選を果たした。我ながら不出来なシナリオだったが、その一語一句に責任を取ることが出来た。自分自身の内臓を吐き出したシナリオだった。胸に抱いた理想も、醜さも、劣等感も、愛やキリストや、女の子への性的な欲望なんかも、一切合財を吐き出した。そんなシナリオが入選して心から嬉しかった。『イサク』は僕がもっとも敬愛する監督の一人、いまおかしんじ監督の手により、『獣の交わり 天使とやる』として全国の成人映画館で上映され、つい先日『罪 tsumi』なるタイトルでDVDレンタルが開始された。

 

幸運は続いた。月刊シナリオの『イサク』掲載号を謹呈した亀井亨監督から、仕事の打診があった。震えが走った。僕は亀井監督の大ファンだったのだ。洗練された映像美、繊細な編集、音楽の使い方など、映画作り全般に卓越したセンスがあり、同時に、作家性とコマーシャリズムの均衡を保つ絶妙なバランス感覚があった。何より、人間に対するまなざしの深さ……。最初の企画は諸般の事情によりうまくいかなかったけれど、亀井さんとの共同脚本作『ヘクトパスカル』で、ようやく出逢いの実を結ぶことができた。

 

『へクトパスカル』は、九州のちっぽけな漁港で葬儀社を営む女性の物語である。孤独と欲望と破壊衝動、そして生と死にまつわる物語である。始終、雨が降りしきる中で、男女の愛と悲しみの営為が綴られていく……こう書くと重い映画のようだが、決してそんなことはない。お客さんは何か一つ、温かいものを手にして劇場を出ることが出来るはずだと、脚本に携わった者としては考えている。とにかく、出来るだけ多くの人に見て欲しい。

 

春には、映画学校の同期生である小沼雄一監督(『童貞放浪記』)と組んだ映画『結び目』が劇場公開される。僕の知る限り、『結び目』は編集の前嶌健治も同期生だし、撮影の早坂伸も、期は異なるものの、やはり映画学校の出身者だ。ちなみに、亀井監督と長年コンビを組み続けているキャメラマン・中尾正人さんも映画学校の先輩である。共通しているのは、彼らは彼ら自身であるということだ。「自分」を吐き出しながら生きているということだ。他の誰でもない、自分自身を生きること――それが映画を作るということであり、生きているということなのである。出来そうで、なかなか出来ないことだ。頑張ろうよ。

 

(日本映画学校 映像科7期生)

 

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