2009.12.29

Category:教員

「『花と兵隊』の受賞」安岡卓治(プロデューサー)

 

映像ジャーナルを6年前に卒業した松林要樹が、ふたつの賞を受賞した。
「山路ふみ子賞・福祉賞」と「田原総一朗ノンフィクション大賞・奨励賞」だ。とりわけ、「田原賞」は第一回、大賞の該当作はなく、奨励賞は準大賞に相当するとのこと。
せっかくの受賞なのに、松林はカンボジアへ取材に行ったまま帰ってこない。
何度もメールした。「こんな賞、一生に一度かもしれないから、絶対帰れ!」
電話が通じれば、怒鳴りつけたところだ。
まったく、すっとこどっこい。行ったまま帰ってこない鉄砲玉。
おかげで、春公開の新作を抱えて、クソ忙しい時期に授賞式で代理受賞しなければならない。「山路賞」では、松林の名前が記された花リボンを胸に付けられ、なんとも居心地が悪いのだが、授賞式の席次で、敬愛する名俳優・三国連太郎さん、「剣岳」の監督でベテランキャメラマン・木村大作さんに挟まれて座り、八千草薫さんや松たか子さんと並ぶと、ちょっと誇らしい気分になった。
この席に座るはずだった松林の学生時代のことを思い出した。実習指導では孤立していた松林を励ましたことがあった。ひとりでガムシャラに踏ん張る粘りが、この賞につながったのだと思う。
そして何より、私がプロデュースした作品「花と兵隊」で、松林が賞を戴いたこと。私だけではない、松林の卒業制作をかつて支え、今回は、編集者として作品を仕上げた辻井潔、そして、応援してくれた同期の仲間、配給宣伝で作品を押し出した先輩たち、この作品を純粋に愛してくれた支援者や観客、みんなの勲章だ。
「田原賞」の受賞式では、会場でプノンペンにいる松林と国際回線をつなぎ、ライブを仕込んだ。
賞の冠でもある田原総一朗さんは、テレビ番組さながらの闊達なトークでプノンペンにいる松林に語りかけた。
「君はね、私は断言する、君は今村昌平を超えたんだ。」
ドキッとした。
絶句する松林。電話の向こうで硬直しているのだろう。
超えたかどうか、さだかではないが、松林の中に日本映画学校の創設者・今村昌平が唱えてきた精神が確実に息づいている。

 

>>第33回 山路ふみ子映画賞
>>第1回「田原総一朗ノンフィクション賞」

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