2010.02.16

Category:学生

「覚悟」竹岡祐毅(映像科2年)

 

1年生の時の実習「人間研究」でのある体験を今でも思い出す。
人間研究というのは映画学校に入学して最初に取り組む実習。
「人間を徹底的に観察する」ために、グループで徹底的にインタビューを中心に取材調査し、写真とインタビューをドキュメンタリー構成で発表する。
自分たちが取材したのは、病死や自殺などで誰にも看取られることなく自宅などで死ぬ「孤独死」とその現場を清掃したり、遺族に代わって故人の遺品を整理する人々。
一人暮らしのお年寄りや世に言う「おひとりさま」の増加にともなってこの現場清掃・遺品整理の社会的な需要は今、確実に増加している。
当時、写真をかじり始めていた僕はこの実習で写真撮影を担当していた。
実習が始まって早々、ある現場清掃の会社に取材に行った僕らは、いきなり孤独死現場に入る機会を得た。

 

その現場は遺体こそないが死後約3カ月経って発見された時のままの状況。
映画「おくりびと」の中に孤独死現場に主人公が入るシーンがあるがまさにあのような部屋だった。
案内してくれた会社の人からここで亡くなっていたと示された布団を見て、僕らは絶句した。
一眼レフを持っていた僕はその布団にカメラを向けた。
だが、僕はシャッターを切ることに一瞬迷ってしまった。
それまで写真を撮るのは、只々楽しいことだったがその時は違った。
ファインダーから覗く世界はとてつもなく未知で、恐ろしかった。
自分はそれを撮ることで、何か途方もなく大きなものを背負うことになるだろう。
そんな気がした。それに対する迷いとある種の覚悟の後、歯を食いしばりながらなんとかシャッターを切った。

 

その写真は作品の1枚目に出すことにした。
それから1年と約半年。今は撮影照明コースで、映画の撮影技術を勉強している。
映画の照明を作るのがすごく面白い。それと同時に、写真もずっと独学で勉強し続けている。
映画を選ぶか、写真を選ぶか、正直まだ迷っている。
写真を選ぶにしても、この学校に来て良かったと思う。

 

学校で勉強したことが学校外で、スタジオやロケで写真を撮るときに役立ったりする。
映画も写真も根本的には同じだと思う。
目の前の被写体に意識を向け、それを撮り、他人に見せるという行為。
その行為には「覚悟」が必要だと思う。
自分が孤独死の現場でカメラを構えながら突きつけられた覚悟。
自分の目の前にあることを人に伝えるという行為ゆえの、伝える者として被写体に対して、また見る人に対して責任を負う覚悟。
ドキュメンタリーを作っていた「人間研究」の時と、劇映画の撮影技術を勉強している今では取り組んでいる内容はずいぶん違うけれど、あの時突きつけられた覚悟は今もずっと忘れない。

 

(日本映画学校 映像科23期生)

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