2010.04.13

Category:OB

「宝くじ」 関 童心(作家)

 

ショート・ショート

あれは、昔むかしのことじゃった。
わしは神社の境内のようなところで、宝くじの抽選会を心待ちにしとったのじゃ。

 

境内は皆の話す声でざわざわ。
その時じゃった。
わしは、二つの濁った視線に気づいた。
その二つの目ん玉は、薄暗い境内の中でわし一点に近寄ってきた。
見ると、肩口より少し伸びたほとんど白い髪の毛に、灰色の着物を着ておる。
そのばあさんは、わしから目線を逸らすことなく一枚の宝くじを手渡してきた。
「これは、なんじゃ・・・・・・」
と、わしが訊ねるより先に、ばあさんは境内の人ごみに消えてしまった。
そして境内では、回る番号(一から十と書いてあるの丸い的)に矢が次々と放たれた。
当選番号、16594。
わしの宝くじは全滅じゃった。
次になんとなくばあさんからもらった宝くじを眺めた。
五センチほどの長方形。
驚きである。
当たっていた。一瞬のうちに七十両である。
引き換えは、次の日からであった。
夜、家に一人でいると、鋭い目つきの若い女が、家の隙間からわしをじーっと見ておるのに気ついたのじゃ。
それから女は、何も言わず家に上がり込んで来た。
「今日、境内で渡した宝くじを返してもらおう」
女は、わしの前まで来て言った。
「なんで、一回もらったものを返すのじゃ! 一緒に山分けにしよう!!」
「それは、違う。あげたのではない。そちの心を見ようとしたのじゃ!」
若い女は、それだけ言うと帰って言った。
次に、きれいな中年の女性が現れ、言ったのじゃ。
「宝くじをすぐ返せ!」
手には、小包一つを紫の布に包んで持っている。
「わしは、一割だけもらって、あとはあなたのものに」
とわしは言った。
次の瞬間、女性は小包をわしに開いた。 
すると、あたりは一面白い煙にうもれた。
わしは、うつぶせに倒れたまま動かなくなった。
目を覚ますと、閻魔大王さんが前にいた。
閻魔大王さんは、わしが目を覚ましてから、すぐ神様に変わった。
あっという間の出来事じゃった。
「あなたは、人から預かった宝くじを当たっていたからといって、自分のものにしようとしましたね。それは、間違いですよ。欲は捨てなさい」
「はい」
わしはあまりの出来事に恐ろしくなったが、心にじんわりきた。

 

(日本映画学校 映像科11期生)

 

■関 童心(著)       
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