2010.07.27

Category:OB

「特にありません」   茂木一樹(写真家)

 

今でも、完璧に思い出す事が出来ます。
それは私が18歳の時、日本映画学校の入学試験の時の事です。
筆記テストの後に行われる面接、その面接の際に使うからと自分のプロフィールを書くための用紙を渡されたのでした、
その用紙には、長所は?とか短所は?とか、自己PRは?
とか、そういった、まあ普通の質問事項が並んでいました。
私はその全てに
「特にありません」
と書いて提出したのでした。別に若者にありがちな、学校という権威に対する無分別な反抗だった訳ではありません。
入試でそれをやったらバカだと思います。
その時、私は、真剣に考えました。自分の短所や長所やPRを。しかし本当に何も思い浮かばなかったのです。
そして、困り果てた末の「特にありません」だったのです。
私は、その時の気分を今でも完璧に思い出す事が出来ます。
しかし、そんなていたらくにも関わらず私は入学する事が出来ました。

 

入学して、何故だか写真を始めました。

たくさんの写真を撮りました。
その写真は自分の作品です。
作品がいくつかの賞も取りました。
自信満々になりました。
そして、卒業しました。
すぐに、写真の仕事が貰えました。
大失敗しました。
たくさんのアルバイトをしました。

 

写真の仕事を真面目にやりたいと思いました。
仕事で失敗する事は、絶対にいけない事だ。
なぜなら、失敗したら2度と仕事ができなくなるからだ。
そのくらい自分を追い込まないと駄目だ。と思いました。
丁寧に仕事をしました。
食えたり、食えなかったりしました。
10年間、自分の「作品」の事なんか考えている暇すらありませんでした。
そして、なにか、つまらないな。と思いました。
今、私が「自己PR」を書けと言われたら、何か適当にでっち上げた「自己PR」を書くでしょう。
「持続力があり、真面目だと、評価して頂く事が多いです」「写真撮影、特に現場取材などでの、臨機応変な対応はお任せ下さい」みたいな。
薄っぺらのつまらない、自己PRを、口からでまかせ、いくらでも書く事が出来ると思います。だからなんだよ。と思ったのです。
本当の事を言えば、私は「特にありません」と書いた18歳のときの自分の事を、少し誇りに思っていたりもするのです。

 

さて、只今、写真展を開催中です。
同期のキャメラマンである早坂伸さんとの2人展です。
「作品」を人に見て貰うのは、ほとんど10年ぶりです。
「特にありません」と書いた頃の気分で写真を撮りました。
是非、見に来て下さい。
(日本映画学校 映像科11期生)

 

『hetero-dyn』
Velma(モデル・パフォーマー)×早坂伸(j.s.c.)×茂木一樹(写真家)
楽曲提供:P.A.N.A project
7/16~8/1
水道橋
UP FIELD GALLERYにて
ギャラリーHP
http://www.upfield-gallery.jp/

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