2011.08.02

Category:学生

「私たちが願った事」 斎藤甫(日本映画大学 1年)

 

4月から行われる人間総合研究の授業。
一年生は、研究したい人間の企画をゼミ内に持ち寄る。
選ばれた企画は、ゼミ内のチームがその人物を取材し、作品として学内に発表する。
私は、図書館でやりたい企画を見つけた。
その後、自分の企画が選ばれる為にはテーマにそった取材対象者を、自分の力で
見つけなければならなかった。
その為に資料を収集した。
どれもこれもが、歴史と歴史の僅かな隙間に存在した恐怖を警告していた。
しかし、資料はあっても肝心の取材対象者が見つからず、焦りが生じてきた。

 

その頃から、徐々に私の頭が狂っていくのを感じ始めた。
そのテーマが、私の頭の中で鳴り響き始めた。
資料の中の狂った男のように・・・。
一人で自分の部屋に帰るのに恐怖を感じ始めた。
玄関の戸を、風呂の扉を、開けた瞬間に、得体の知れない何かが待っていて、
そいつは私を殺してしまうだろう。
そして、この都会で私は抹消されてしまう。そう、感じ始めた。
焦った私は、松沢病院という古い精神病院に取材依頼をしたりした。
取材対象者が見つからない状況が続いたが、
私の企画に賛同してくれる仲間が出来た。
そのような経験は初めてで、とても嬉しかった。
徹夜態勢で真剣に接してくれた。
頼もしい仲間と共に、再度取材対象者を探す旅が始まった。
仲間が出来たあと、あの幻聴は聞こえなくなった。

 

ロボトミー手術。かつて、全世界で持て囃された精神外科手術があった。
精神病患者の脳のある部位を切り取る手術。
世界中で狂人扱いされていた患者たちはこれで正常になる、はずであった。
しかしその内実は、患者を廃人化、もしくは死に至らしめる手術であった。
ある一定の名誉欲に走った精神外科医たちは、懸命にデータの改ざんに勤しんだ。
そして、死にきれず医者の不正を訴える事も出来なくなる程に廃人化した彼らは、
現在も古い精神病棟の奥深くで時が過ぎるのを静かに待っている―――。

 

結局、取材対象者は見つからずに締切の日が来てしまった。
ここに、覚えている範囲で私のその日のゼミ内での発表を記す。
「ロボトミー手術は、医者の判断で自由に被験出来ました。
そして、選ばれたら最後、絶望しかそこにはありません。
ロボトミーは、今は行われていません。
しかし、この負の歴史を忘れさせてはいけません。
人間の改造手術。その危険性を私たちは残しておきたい。
だから、私たちは被術者に取材をしてみたい。
そして作品に残してみたい」

 

( 日本映画大学 映画学部 1期生)

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