2012.01.03

Category:学長

「入試と校風」佐藤忠男(日本映画大学 学長 )

 

日本映画大学は、昨年春から、とてもいい第一期生たちを迎えて楽しく真剣な授業を進めております。

 

学生たちの学習態度の熱心なことは想像以上で、教師たちもみんな喜んでいます。
この大学は、37年前に故今村昌平が設立した専門学校が土台になっています。

 

昨年、それを大学に再編成することを文部科学省に申請して審査を受けたとき、一部の審査委員から、大学になることは良いことだが、専門学校時代の良さを
失うことはないでしょうね、と注意を受けたことが強く印象に残っています。
と、言いますのは、その日本映画学校という学校は、三池崇史、佐々部清、李相日などの監督たちをはじめ、いまの日本映画界の先頭に立って目覚ましい活躍をしている人材を非常にたくさん生み出してきたところだからです。
映画製作の現場のスタッフの何割かが卒業生だとさえ言われているほどです。

 

なぜそんな多くの優秀な人材を出すことができたか。
教え方が良かったからだ、という自負はもちろんありますが、もうひとつの理由は入学志望者の試験で、学力テストに劣らず、面接で映画への熱意や、どんな映画を作りたいという夢を持っているかなどをよく聞いて、それで面接担当の教師が大いに共鳴した応募者が優先的に合格するという傾向があり、それが自ずから積極的に映画を志す若者たちの学校だという校風を作り出したのだと思います。
この気風こそが教育の根幹であり、学生同士の切磋琢磨を生み出すものであると思います。

 

そういう考え方が行われていた日本映画学校の入学試験では、偏差値の高い学生を集めるなどということはありませんでした。
社会全体の教育水準が高まり、映画人にも大学程度の一般教養が求められる時代になって、その時代の要望に沿ってわれわれも専門学校から大学へと学校の形を変えました。今年の第一期生を見ていて、ますます優秀な人材育成が出来ると自信を深めているところです。

 

ただ、面接重視で偏差値軽視の入試のやりかたは、世間一般の大学入試とかけ離れているので誤解を招いたかもしれません。とても面白い考え方を持っている志望者がいて、教えると伸びると思って偏差値が低くても合格すると、そのいちばん低い偏差値が公表されて、あの大学はこの点数でも合格できるところだから何流校だ、などという風評被害が生じかねないのです。偏差値で若者を輪切りにして分離するというような作業ばかりやっていたら独自の校風など育てようがないのではないでしょうか。

 

日本映画大学は秀才も成績は普通の学生も、さらには少々変わり者の人たちも映画や広く映像文化一般に熱意と関心を持つ人なら歓迎します。
なぜなら映画や映像関連の仕事は秀才だけでやるものではないからです。
今年の新入生には秀才がたくさんいると同時に普通の若者もおり、相当な変わり者もいます。これが理想のあり方だと思います。
このあり方を、来年も、さらにはずっと先も維持してゆきたいと思います。

 

(日本映画大学 学長 佐藤忠男)

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