2012.05.01
Category:OB
24期卒業映画を監督しました。
ふと振り返ってみると、映画を作る中で喜びを覚えた記憶は滅多にない。
企画から仕上げまで僕の心の中を占領してしていたのは焦りと恐怖、怒り、
暫くの安堵、そして、続く絶望。
「一体、なんで映画なんかやろうとするのかな」
映画ほど効率が悪い仕事もない。
自害行為に近く苦しみながら脳みそを絞っても思い出さなかったことはなぜ
撮影が終わった直後にぽんと意識に思い浮かぶのか本当にわけが解らない。
良いアイディアが必要な瞬間に間に合わないことは限りなく悔しい。
「こう脚本書いたらよかったなに、こいう演出がほしかったのに…」
しかし、苛酷な心身の試練に点綴されていた中、まれまれエクスタシー並みの
深い悦楽を味わった瞬間もなくはない。
まず、脚本の時。
‘眩しく光を明かし、くねくね曲がった坂道を登るバス。
残された祖母はぼっとした顔で姿を消していくバスを見守っているしかない。
会ってから間もなくの間なのに
「いいな、いいな」と呟きながら、一人でこそこそ笑いながら脚本を書いていた
その瞬間。
苦しい現場の空気で現場の進み具合、俳優さん達の的確な芝居、僕の演出方向が
一致した稀な瞬間。
顔に出さなかったけど、感激で胸が一杯だったのを覚えている。
何よりも、上映会が終わった後、出演して下さった俳優さんたちからのお言葉。
「よかったよ、またなんかやりましょう」
「なんかやる時は呼んでね」
「激安で出るから。あは!」
「俺がやって行こうとする映画という長いのり道に快く乗ってくれるんだ。映画、
続いてやって行っても大丈夫なのかな」
こうしてまれまれの圧倒的な悦楽は、長くも厳しい試練だった映画製作への気持ちを
まんまと欺き、僕を再び映画の道に導く。
※ 佐藤忠男賞:卒業制作作品に対し最も評価されたものに送られる賞
(日本映画学校映像科24期生)