2013.02.19

Category:OB

「その目にとらわれた」中野香(川崎市アートセンター勤務)

「その目にとらわれた」中野香(川崎市アートセンター勤務)

 

いま、わたしが働いている川崎市アートセンター(映画学校から歩いて2、3分)で『父をめぐる旅 異才の日本画家・中村正義の生涯』というドキュメンタリー映画を上映している。

共同監督はここで細かく紹介するまでもない武重邦夫先生と、横浜5期の近藤正典さん、撮影監督は映画学校4期の松根広隆さん、録音は13期の若林大介さん、照明は12期の谷本幸治さん、編集は横浜5期の金子数生さん、助監督は・・・と、この作品は音楽の丸山朋文さん以外はオール映画学校卒業生だ。

 

中村正義とは?わたしはこの映画に出会うまでこの画家のことを知らなかった。映画が完成し、公開の準備をしているうちに、どんどん中村正義の魅力に引きこまれてしまった。

中村正義は、1924年愛知県豊橋市に生まれる。22歳で日本を代表する美術展覧会のひとつ、日展に初入選し、たちまち頭角をあらわす。26歳で特選を受賞。36歳という若さで日展の審査員に推挙され、その頂点に登りつめながらも、画壇の古い体質に異を唱え脱退。

 

それ以降は画風を一転させ、多種多様な作品を次々に発表する。同じ画家が描いたとは思えないほど、ひとつのことにとらわれない自由なそれらの絵は、一度見ると忘れることができないほど強烈なインパクトがある。中村正義の人生は病との闘いでもあった。生と死がすぐそこにあったからこそ、創作への探求をより強いものにしていたようにも思える。52歳という若さでなくなるまで、真の芸術を求め続けた画家である。

 

なにしろ絵がすごい。

ひとつひとつがすごい。すごいとしか言えない自分を恥じるが、なにしろすごい。

初めて中村正義の絵を見たのは、麻生区細山にある「中村正義の美術館」であった。

この地は、中村正義が暮らし、創作活動をしていた場所である。
転居してきたのはちょうど、日展を脱退する前。ここで代表的な《男女》や《顔》シリーズなどが描かれた。初めて訪れた時に展示してあったのは、一生をかけて描き続けた《顔》たちだった。それらの《顔》は見ているこちらの心の中までも見られているような気持ちになる。

正義の描く《顔》はとても不思議な魅力にあふれている。

 

先日、いてもたってもいられず、故郷の豊橋で開催されていた企画展に行ってきた。

こうなるともう何かに憑りつかれたようだと自分でも思う。

そこで見たひとつに、あの強烈なイメージとはかけ離れた、鉛筆で描かれた普通の《自画像》があった。

この《自画像》の目にも心を鷲掴みされてしまった。
鉛筆の黒がびっしりと定着しているのと同じように、そこに中村正義もがびっしりと定着しているような、目の前に本人がいるような、絵をみてそんな気持ちになったのは初めての体験だった。

中村正義本人には残念ながら会ったことがないが、映画のメインビジュアルにも選んだ写真のこの目の力も尋常ではない。この目で何を見て、何を思ったのだろう。

この映画は、中村正義とはどういう人間だったのかを、「中村正義の美術館」を守り続けてきた娘の倫子さんがその姿を求めて旅をするドキュメンタリー映画だ。

生涯をかけてたくさんの作品を残した中村正義の絵もしっかりと堪能することができる貴重な映画でもある。

映画に現れたのは「ひとつの時代を生きた人」という過去ではなく、貪欲に創作を続けたひとりの画家の生き様が、いま、さまざまな創作の場にいきるわたしたちに勇気を与えてくれると思う。

中村正義という大きな存在に真正面からぶつかっていった製作スタッフの諸先輩方の力の大きさにも驚嘆する。

ここまでしっかりと腰を据えて作られた映画はここ最近あまりみかけない。

映画との出会い、中村正義との出会いに感謝し、こうした映画をこの場所で上映できる喜びをじっくりとかみしめたい。

(日本映画学校 映像科19期生)

 

 

父をめぐる旅チラシ表

『父をめぐる旅』公式サイト
「メモリーズ」で書かれている武重先生のエッセイがとんでもなく面白いです。
http://www.cinemanest.com/masayoshi/home.html

「中村正義の美術館」公式サイト
読売ランド前駅から散歩がてら歩くのがおすすめです。とてもいい場所なので学生にはぜひ行ってほしいです。
http://nakamuramasayoshi.com/

川崎市アートセンターでの上映はいよいよ3月1日まで!
上映詳細はこちら
http://kac-cinema.jp/theater/detail.php?id=000536
★映画学校生,映画大学生はいつでも1000円でご鑑賞できます!

『父をめぐる旅』公式サイト
「メモリーズ」で書かれている武重先生のエッセイがとんでもなく面白いです。
http://www.cinemanest.com/masayoshi/home.html 

「中村正義の美術館」公式サイト
読売ランド前駅から散歩がてら歩くのがおすすめです。とてもいい場所なので学生にはぜひ行ってほしいです。
http://nakamuramasayoshi.com/

川崎市アートセンターでの上映はいよいよ3月1日まで!
上映詳細はこちら
http://kac-cinema.jp/theater/detail.php?id=000536
★映画学校生,映画大学生はいつでも1000円でご鑑賞できます!

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