2013.03.26

Category:教員

『これから「名画座」の話をしよう。』細野辰興(映画監督、日本映画大学教員 )

『これから「名画座」の話をしよう。』細野辰興(映画監督、日本映画大学教員 )

 

「映画の本質」の話から入ろう。と云っても日頃ゼミで話しているメディアとしての「映画の社会的役割の本質」ではない。「映画の観られ方の本質」だ。
TVもインターネットも存在しない遠い昔、映画はどの様に人々に観られていたか? リュミエール兄弟のグラン・カフェを例に出すまでもなく人々は、住居から出て映画が上映される場所に集まって観ていたのだ。映画館か野外上映かは知らないが、兎に角、人々は一箇所に集まって映画を観てきた。それが「映画の観られ方の本質」だ。勿論、私も基本、その様に映画を観てきた。

私が十代後半から二十代前半の頃、都会を中心に映画のオールナイト興行と云うものが花盛りだった。高倉健、鶴田浩二、藤純子などの東映任侠映画が魁だったが、色々な「封切り館」で土曜の夜から日曜日の朝にかけて映画を上映し若者を中心に圧倒的な支持を得ていた。
一番の全盛期(1969年前後)には田舎の高校生だった私がオールナイトに嵌るのは、それよりもう少し後の大学生の時代。任侠映画は下火になっていたが、色々な特集上映が組まれ、一晩で数本往年の映画が観られるオールナイトに毎週の様に通い続けた。観たい映画たちを観ようと思っている人達ばかりの空間に身を置き共通の映画を観る悦びよッ。今、思い出してもワクワクして鳥肌が立ってくる(笑)。
その中でも特に印象に残っているのは、新宿東映(現在の「バルト9」)の『宮本武蔵』五部作(監督・内田吐夢 主演・中村錦之助)一挙上映と、知る人ぞ知る名画座の老舗、池袋・文芸坐(現在の「新文芸坐」当時は同じビルに文芸地下と芝居小屋ルピリエの三空間在った。)の『日活映画特集』だ。   
『宮本武蔵』五部作では10年間に及ぶ武蔵の大河の奔流のような凄まじい生き様を一晩で体験し、脚本の鈴木尚之氏の名台詞「青春二十一、遅くはないッ。」を反芻し自らを鼓舞したものだ。
文芸坐(正確には文芸地下の方)の日活特集は、「日活」が「にっかつ」と改めロマン・ポルノ路線に変更して間もない頃だったので何処か「往年の日活アクションよもう一度! 」的な雰囲気が漂い満席の場内は凄い熱気! 映画館丸ごとその時代へタイムスリップしたかの様だった。石原裕次郎出現前の日活映画(50年代前半)から始まり裕次郎が登場、ブレイクした黄金期までの作品群を遡ると云う、戦後最高の人気スター誕生のクロニクルを追体験。一本一本微妙に変化していく裕次郎やレギュラー共演者たちの顔つき、そして当時の日本の風景。それを一晩で他の観客たちと一緒に追体験してしまった興奮は、大袈裟にではなく生涯、忘れることはない。

さて、ここからは今日のテーマである宣伝です(笑)。その名画座の老舗、「新文芸坐」で来たる4月6日?に私のオールナイト特集を実施してくれることになりました。題して、
【『私の叔父さん』DVD発売記念 気になる日本映画達<アイツラ>2012番外編 異才・細野辰興オールナイト&高橋克典トークイベント】
『私の叔父さん』『竜二Forever』(主演・高橋克典)『シャブ極道』(主演・役所広司)の3本立て。
今年の一月に「シネマヴェーラ渋谷」が【90年代のバイオレンス映画】特集の中で2日間に亘り『シャブ極道』を8回上映してくれ、未見の方を中心に、かなりの集客と反響を呼んだ。再上映を求める声がtwitterを中心に飛び交い始め、丁度、『私の叔父さん』のDVD発売が3月20日に迫っており、イベント企画人として知る人ぞ知る「錦之助」さんの仲介もあり、実現した。
他の作品では滅多に観ることが出来ない役所広司と高橋克典!! &生・高橋克典と私のトークイベント。オールナイト向きの番組になったとは自負している(笑)。

処が、若者の名画座離れが甚だしいと耳に入って来る。なんて勿体ないことを!? と思う。映画館ではなくTVのモニターで映画を観て育った世代が映画館にノスタルジーを感じないのは解らないではない。しかし、映画館、特に特集上映中心の名画座は映画ファンや映画を勉強しようと思っている者には宝庫中の宝庫だ。滅多に観られない作品たちが、そこへ行けば大スクリーン&フィルム上映され、他の観客たちと一緒に観られる贅沢さ。自分以外の反応も判る。意外な人とも遭遇する。「新文芸坐」などは入れ替えもないので何回も観ることが出来る。書籍やチラシなどの資料や情報も手に入る。何より映画のライブ感を体験できる。これを利用しない手はないではないかッ。

「新文芸坐」を筆頭に「大井武蔵野館」、「飯田橋ギンレイ坐」、「早稲田松竹」、「目黒シネマ」、「シネマジャック&ベティ」、「シネマヴェーラ渋谷」、「下高井戸シネマ」、「川崎アートセンター」、三月一杯で閉館となる「銀座シネパトス」など魅力的な名画座はまだまだ在る。
若者よ、「映画の本質」に戻って映画館で映画を観よ! 名画座デビューせよ! 名画座に通って往年の映画の力を体感せよ! それこそが明日の力だッ。
先ず手始めに、4月6日?の「新文芸坐」の私のオールナイト特集辺りから覗いてみようではないか(笑)。
(日本映画大学 准教授)

PS:「新文芸坐」さんの御好意で日本映画大学の学生は、4月6日?の私のオールナイト特集に、学生証を提示すれば割引料金(当日2500円、前売り2300円の処を2000円)で入場できること になりました。 28日(木)から劇場窓口で前売り券を購入できるそうです。

新文芸坐ホームページ
http://www.shin-bungeiza.com/allnight.html

『私の叔父さん』ホームページ
http://www.magicaltv.net/_webpage/watashino-ojisan/

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