2013.04.30

Category:OB

「『戦争と一人の女』出演を通して、映画への熱い気持ち」千葉美紅(女優)

近影  2013年春。満開の目黒川の桜を背景に。

 

「OB牧場」第55回より転載
(インタビュー&構成:「OB牧場」編集部・岩崎聡子)
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日本映画学校俳優科23期卒業(天願大介ゼミ)

今回は千葉美紅さんにご登場いただきます。千葉さんは卒業して3年目、ピカピカの23歳。にもかかわらず、実習映画には約50本のご出演実績を誇る実習映画の女王です。
そんな千葉さんの代表作ともなる劇場映画「戦争と一人の女」(井上淳一監督・坂口安吾原作、荒井晴彦氏脚本、永瀬正敏主演)が今月公開されます。試写会場が、満員札止めになるなど、早くも話題沸騰中のこの映画で「宮下光子」という、重要且つ大胆な役に抜擢され、体当たりで挑戦した千葉美紅さんに映画の見所を含め、映画への思いを語っていただきました。『下積み真っ只中です!』と謙虚に頑張る姿に若き日のご自身を重ねられる方もいらっしゃるかもしれません。

Q:まず、「戦争と一人の女」へのご出演の経緯を教えてください。
学校の講師だった鳥井邦男監督の御紹介で宝塚造形芸術大学卒業制作『UNBRIGHT』にキャスティングされました。その映画で、共演した韓英恵さん主演の『アジアの純真』という映画を観に行き、脚本の井上淳一さん(『戦争と一人の女』監督)と知り合い、『戦争と一人の女』のうっすらとした企画を聞きました。その後日本映画学校の脚本ゼミの卒業制作『リセット』に出ることになり、それを観た井上淳一さんから「(『戦争と一人の女』のキャスティング為の)面接をしませんか」と電話を頂き、お会いしたら驚くほどすんなり決まりました。この宮下光子という役、少しハードなところがあるため、なかなか役者が決まらなかったらしいです。やりたい!という言葉で頭が埋め尽くされ、あまり考えずに「私やりたいです」と答えました。親にはあとから説明しました。好き勝手やらせてくれる親には感謝してます。
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Q:千葉さんの演じた『宮下光子』役についての第一印象等は?
A:「この子は何も悪くないのに」です。演じるにあたり、研究しているうちに私がこの役を演じる事で、現代の性犯罪がどれほど怖い事か知ってもらって、このような事件が少しでも減るといいとも思いました。
~『戦争と一人の女』は2012年夏、湯布院映画祭に出品されました。湯布院映画祭のパンフレットの中で千葉さんは下記のようにコメントを寄せています。
『被害者の無念を代弁』
事件、事故、戦争、災害・・・生きられたはずの命が奪われていく。この映画のモデルとなった小平事件を知ってもらう事で被害者の無念を晴らしたい。私は代弁者と言う気持ちが強くありました。監督も死に際のリアリティを求めておりましたので、研究はしました。しかし「光子の人生の最期」には責任とプレッシャーを感じていました。あとはもう本番で。視界は白く霞むし音は遠ざかるし苦しかったので、とにかく必死でもがきました。怖かったです。そんな中でも家族のもとへ帰りたいという思いはずっとあった気がします。

湯布院映画祭パンフレット 「戦争と一人の女」キャスト紹介ページ⇒http://www.dogsugar.co.jp/sensou_cast.html

 

Q:この役を演じるにあたり、役作りでは相当苦しまれたそうですが、例えばどのような研究をされたのでしょうか?

A: 本を読んだり話を聞きに行ったりと調べることはたくさんありました。役作りとして正しかったのかはわかりませんが、自分で自分の首を苦しくなるまで絞めたり(!)、Youtubeで殺害の映像などを見ていたので精神的に辛い日々でした。あと体毛を剃るなと言われていたので、夏なのに半袖になれなくて・・辛かったです(笑)。

Q:現場はやはり壮絶でしたか?

A:現場は開放的で安心して、信頼して撮影に臨めました。山の上での撮影で良かったです。

撮影は京都で敢行!

 

リハーサルでは、監督と共に大平義夫役の村上淳さんがアクションの先生のように様々な提案をしてくださいました。殴るか蹴るかという動きの中で髪の毛を思い切り引っ張るという動きが生まれました。シーンが印象的に成立していたとすれば村上さんのお陰です。村上さんは「小石でも大怪我するんだ。気を付けて。」等、気を配って下さってとても優しい方でした。JACCSカードのCMが流れていたときから村上さんを意識し憧れていたので、こんなに早く共演することができて嬉しいです(笑)。
しかし、本番は恐怖でずっと頭がパニック状態。興奮状態です。村上淳さんが優しい方だとわかったので、もうどうなってもいいと半分身を預けるような感じで立ち向かっていけました。あの役は被害者だけれども私は精一杯戦ったつもりです。実際にそういう事件があって人が亡くなっているので、その人のことをずっとそばに感じていました。村上淳さんが「ひどいことはひどいという描写にしないといけないと思いました。それはやっぱり台本にも書かれていたことなので」おっしゃっていましたが、その言葉にはすごく共感しています。私もそのつもりで挑みました。カットがかかって、光子は死に、私は生き返りました。ザラザラゴリゴリと嫌なものが体の奥に沈んでいくような感覚でした。それは初めての経験でした。

宮下光子役 撮影中の一コマ

 

Q:~以下ネタばれ含む~
かなり大胆なカットがありましたね。驚きました。ホントに。
A:ヘアが出ているところは編集の蛭田智子さんが一度はカットをしたそうです。ですが監督が『無残さが増す。』と言う事で復活させました。

Q:本当に無残でした。失禁するところも無残でしたが・・・。(ひょっとして、まさか本物?)
A:アレはカレー粉を水で溶いたものです。「甘口ですからヒリヒリしませんよ」と言ってからつけてくれました(笑)。なので現場は甘いカレーの香りがしていました(笑)。

出番を待つ現場の千葉さん。集中!

 

Q:いよいよ公開ですが、映画への思いと、みどころは?
A: この映画は当初、低予算の企画だったのですが、できた脚本が素晴らしく企画が大きくなり、キャストもスタッフも素晴らしい方々が集まりました。しかし本当に低予算でしたのでスタッフの知恵と技術の総結集で創られた映画です。日本映画の誇りだと思います。
小説(坂口安吾 著)を知らない人でも十分楽しんでいただけると思います。登場人物それぞれが受けた戦争の影響や生き方、女が見る戦争の捉え方にも注目してもらいたい。戦争から原発事故にも発展して考えることもできると思いますし、映画を観た方の世界観が広がったら素敵だと思います。脚本は原作を尊重していると思いますし、現場は脚本を尊重していました。だからでしょうか。私はこの映画を観たとき、小説をめくるように進んでいく印象を受けました。井上監督(若松孝二監督の助監督ご出身)と脚本(荒井晴彦氏)の相性がとても良く、小説を具体化したらこのような映像になりました、という部分も楽しんでいただけると思います。

撮影現場にて 手前左:照明:豊見山明長さん、中央:監督の井上淳一さん、手前右:企画・統括プロデューサ:寺脇研さん、奥左:録音:臼井勝さん、奥中央:照明助手:北岡孝文さん、青いシャツ:助監督:瀬戸慎吾さん、右:衣裳:西川まゆさん。

 

Q:千葉さんは、撮影が終わってからも映画の宣伝活動など積極的に参加されているようですね。

A:完成報告記者会見で司会を任され、カラオケボックスへ行ってマイク捌きの練習までしたのですが・・・初体験とはいえ散々な結果でした。でも、それを責めることなく、アットホームな会見になったねと励ましてくださいました。永瀬さんが司会の私に質問を振ってくださったりして、皆さんに助けられました。現場にいるときから思っていたのですが、とても居心地がいいのです。公開したらもう集まれなくなるのかと思うと寂しいです。役者は少しの時間しか現場にいられないので、ずっと現場にいられるスタッフの仕事に転職しようかと考えたことがあります。

Q:その気持ち、判る気がします。でも、やはり女優を続けようと決意されたのですよね?
A:一度、卒業後に自分が何をしたいか判らなくなり俳優科の担任天願さんに『明確な目標がないし自分のやりたいことは仕事じゃなく趣味かもしれない。』と考えて相談に行ったら、軽く「(女優を)もう少しやってみたら~?」と受け流されて、天願さんの言うとおり、もう少しやってみることにしました。

Q:素直に先生の意見を受け入れられたのですね。

A:はい。天願さんは会うと緊張するけど安心もする、そんな人です。年に1回会えれば十分ですね。パワーをもらおうと、卒業式のときに1トレで撮った天願さんの写真を手帳に入れて常に持ち歩いてます。天願さんの言葉でよく覚えているのが、髪はボサボサ、メイクもしない、ほとんどジャージで過ごしていた私に「石ころみたいだな」と言ったこと。あとは「生きろ」です。

手帳の表紙を開くと、天願大介氏の写真!

そしてその裏にはウエンツ瑛士氏の写真も!

 

Q:その天願さんは、映画をご覧になってどのようなアドバイスを下さいましたか?

A:天願さんには(私の演技について)ボロクソに言われました。それが一番聞きたい意見で、ありがたい言葉だとわかっているので、一晩泣いて今は立ち直ってます。
Q:ボロクソとは?
A:全否定です(笑)。お電話を頂いて。それで・・・・。
Q:厳しいですね。でもこの上なくありがたいですね。では最後にこれだけは言っておきたい事を是非!
観てください!まず観てください!それぞれに捉え方や影響があり、始まったものは終わります。そして残り、続きます。小説のようで、でもズンズンと重く響く作品だと思います。皆様に観ていただきたいです。とにかく観てください!まず、観てください!
・・・あの、それから現在、フリーで活動中なので、私の面倒を見てくださるエージェントを募集中です!よろしくお願いいたします!
映画『戦争と一人の女』4月27日よりテアトル新宿ほか全国ロードショーです。宜しくお願いします!!

イベント情報

【テアトル新宿・初日舞台挨拶スケジュール】
☆ 10:50~12:28(本編上映/1回目)
☆ 12:30~13:00(舞台挨拶)
 出演者:江口のりこ×永瀬正敏×村上淳×柄本明 
 スタッフ:寺脇研(企画)×荒井晴彦(脚本)×井上淳一(監督)
☆13:00~13:50(ロビーにてサイン会)
☆14:00~14:20(舞台挨拶20分)
☆14:20~15:58(本編上映/2回目)
☆16:00~(ロビーにてサイン会)

【トークイベント@テアトル新宿(第一弾!)】
GWは劇場へGO!

       各回
18:30~20:08(本編上映)
20:10~20:40(トークイベント)
20:40~(ロビーにてサイン会実施

 ☆4月28日(日)寺脇研 × ヤンヨンヒ(映画監督) 
 「朝鮮半島の緊張…今、これから起こりえる戦争をどう考える  のか!」
☆4月29日(月)寺脇研 × 鈴木邦男(一水会顧問)
 「右翼から見た戦争!そして、一人の女!」

☆4月30日(火)千葉美紅(女優) × 牧野風子(女優) ×
         marron(女優) × 大池容子(女優)
 「女優たちの挑戦!犯された四人の女たち」

☆5月2日(木)寺脇研 × 宮台真司(社会学者)
 「戦時下の終わりなき日常を生きろ!」

☆5月3日(金)寺脇研 × 根岸吉太郎(映画監督) 
 「『暴行儀式』『遠雷』から三十余年、盟友・根岸吉太郎、荒井晴彦ワールドを語る」
☆5月4日(土)井上淳一 × 永瀬正敏(俳優) 

 「虚無と転生…坂口安吾の世界を演じて」
☆5月5日(日)井上淳一 × 村上淳(俳優) 

 「これぞ、下から突き上げる戦争映画だ!」
☆5月6日(月)寺脇研 × 近藤ようこ(漫画家) 

 「映画と漫画…ふたつの『戦争/女』」
※サイン会は日程により変更があるかもしれません。
      ご了承下さい。
公式HP⇒ http://www.dogsugar.co.jp/sensou.html

Facebookページ⇒ https://www.facebook.com/sensouto2012?fref=ts

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千葉美紅さん今後の活動情報と一言アピールコーナー

* 出演作品 日本映画学校卒業生 吉野竜平監督『あかぼし』
(第25回東京国際映画祭日本映画・ある視点 出品作品)
2013年8月 K’s cinema にて1ヶ月レイトショー公開決定!です。

東京国際映画祭URL
http://2013.tiff-jp.net/news/ja/?p=17697

K’s cinemaURL
http://www.ks-cinema.com/index.html

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日本映画学校OB牧場ホームページ
http://www.cinemanest.com/OBbokujo/new.html

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