2014.01.07

Category:教員

「面白さって何だろう ~国際会議でも大議論」中川 譲(日本映画大学教員 )

 

CILECT(国際映画・放送学校連携センター)という学会があります。普通の人にはほとんど知られていない組織なのですが、年に一度以上のペースで世界各国の映画や映像放送に関する大学教育や実務に携わる人々が集まり、教員同士の研究発表や学生たちの作品の審査・表彰などを行う場です。2013年は、日本からだと移動に24時間以上かかってしまう地球の裏側、アルゼンチンのブエノスアイレスで、9月16日から20日まで開催されました。

 

今年のCILECTの発表で一番盛り上がったのは、映画・ゲーム両方のシナリオ執筆経験を持つAndrew Walsh氏のセッションでした。Walsh氏は、「例えば、ハリー・ポッターで灯りを付ける魔法を使うとしよう。小説や映画でなら、魔法を唱えて灯りが点くだけでも観客は面白がってくれる。でも、ボタンを押して灯りが付けられるというゲームを作っても、全く面白くならない。ゲームの面白さは映画とは異なるのだ」と指摘し、映画とゲームで観客が感じる面白さの違い、そして書き方・創り方の違いを説明していました。私はしみじみ「なるほど~」と感心して聞いていたのですが、会場からはWalsh氏に対してかなり否定的な声が上がりました。「そういうゲームの面白さは映画作りとは関係無い」ということのようなのです。でも、こういう考え方はかなり不味いのです。

 

何故かというと、日本人が趣味に費やせる時間や金額には上限があり、ある日いきなり増えたりはしません。つまり、娯楽というものは「ゼロサム(誰かが得をした分は、必ず他の誰かが損をする仕組み)」なんですね。だから、ゲームを面白いと思う人が増えれば、映画を観る人は減るわけです。ということは、映画を観たい人を増やしたければ、ゲームの面白さを知った上で、それより面白いものを出す必要があることになります。

 

「自分が面白いもの」を素晴らしいと思うのは大切なことなんですが、「自分が面白くないもの」を否定するような態度は褒められるものではありません。これは映画を観るときのみならず、小説でもマンガでもゲームでも、その他どんな表現を受容する時でも同じです。「どうしてこんなもんを面白いという人が何百万人もいるんだろう?そしてどうすれば自分はそういう人達を楽しませられるんだろう?」 そんな風に考えるようにしたいですね。(日本映画大学 准教授)

 

日本映画大学が加盟するCILECTは、1955年にフランスのカンヌで設立された組織で、映画・テレビについての教育の改善と発展、人材育成を目的として、文化交流や情報交換などを行っています。世界全域57カ国、それぞれの国を代表する148の映画学校が加盟しており、多くの世界的な監督や俳優、映画制作者を輩出しています。日本では日本映画大学、東京藝術大学、日本大学藝術学部映画学科の3校が会員校となっています。

 

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