2024.08.04

Category:教員

2024年後半の世界 これからどうなる

日本映画大学名誉教授 熊岡路矢
日本国際ボランティアセンター(JVC)元代表

(この小論は筆者個人の意見です。)


 連日の、熱帯以上の暑さという異常気象と感染症が拡大する日本列島であるが、世界の政治社会情勢は、ここ、数週間数か月に限定しても、危険な事態が広がっている。

 焦点の一つは、中東情勢ウクライナ戦争、そして世界各地の紛争と絡み合う米国大統領選挙(11月05日が投票日)である。冷戦後、そしてアフガン、イラク戦争後に落ちたとはいえ、米国大統領の政策決定による世界への影響力はまだ大きい。バイデン大統領が民主党の大統領候補から降りたため、世界にも稀な「老老対決」構造の半分は消えた。

 

【イスラエルと周辺国の攻撃の応酬】

1) イスラエルのガザ攻撃。現在のガザへの激しい軍事攻撃は「人質奪還」のためのものであろうか、現ネタニエフ政権の延命のためのものなのか。

  1. 7月7日のパレスチナ保健機関の発表では、イスラエルによるガザへの軍事攻撃で、犠牲者3万8153人、けが人は8万7828人。うち7割以上が、女性やこどもたちの死傷者である。ウクライナなど他の戦争の地域での犠牲と比べても、非戦闘員の犠牲・被害は突出した数字になっている。(なお爆破された建物下部に閉じ込められた人々、行方不明の人々は、上記数字には含まれない。

  2. イスラエル、ネタニエフ政権は、ガザへの軍事行動の理由を「イスラエル人の人質解放」「ハマス殲滅」をあげているが、昨年2023年中の停戦・人質交換での約100人の解放以降、数人の解放が数回あった位である。つまり人質解放に関しては本気ではないのではないかという批判が国内でも出ている。(2023年12月、白旗を掲げて逃げてきたイスラエル人人質が誤ってイスラエル自軍に射殺された。)

  3. 2019年から収賄・詐欺・背任で起訴されているネタニエフ首相への支持率は高くはない。いまや政権の延命のために、戦争を続けているのではないかという疑惑・批判も社会内に広がっている。批判側の中心は、人質の家族・支援グループ。占領政策、軍事中心主義を批判する市民派。ユダヤ教右派を中心とする現政権に対する、野党などが政権批判の中心になっている。

2) イスラエル、周辺国との軍事攻撃の展開

  1. イスラエルと、イエメン・フーシ派(イランの支援を受ける)との7月中旬の空爆のやりとりは限定的な規模とみられるが、両国にとって危険なものである。さらにイスラエルと、隣国レバノンの軍事勢力の戦いは、40年以上に及んでいる。

    7月27日、ヒズボラ(レバノンのシーア派政治・軍事組織。イラン、シリアの支援を受ける。)は、イスラエルが不当に占拠するシリア・ゴラン高原(シリア高原という呼び名もある)へのロケット弾攻撃を行った。その結果12人の青少年が犠牲になった。その葬儀が終わった30日、報復として、イスラエル軍は、レバノンの首都ベイルート南郊外のヒズボラの拠点を空爆し、司令官を殺害したと発表した。ヒズボラ側も、約一日遅れて、フアド・シュクル司令官の死を認めた。

    現在、イスラエル、ヒズボラともに、全面的な戦争を準備していると公表している。
  2. 7月31日、イスラエルは、イランの首都テヘラン、ハマスのイスマイル・ハニヤ政治局長の「邸宅」(実際には、イラン革命防衛隊の特別なゲストハウス=イラン情報)にミサイルを撃ち込み(最新情報では、2か月前に遠隔操作の爆弾をしかけたとのこと。=米国情報)、ハニヤ氏と護衛、インタビュー中のアルジャジーラ記者などを殺害した。ハマスはパレスチナのスンニ派政治・軍事組織であるが、シーア派の大国イランの支援を受けている。

    8月2日現在、イランは自国を襲われ客人を殺害されたことで復讐を誓い、ハマスも同様にイスラエルへの反撃を図ろうとしている。

  3. いつも過剰に強気のイスラエルとはいえ、またイスラエルから言えば自衛のためということになるのかも知れないが、このように全方向、近隣国ふくめ次々に敵国を刺激し、短期はともかく中長期の戦略を持たねば生き延びるのは難しいのではないだろうか。イスラエル国内世論の一部にも、またイスラエル外で暮らす世界のユダヤ系市民、知識人の一部からも、イスラエルーパレスチナの二国共存、パレスチナ領からの入植引き揚げなどの構想を再びもち、実行する以外、生き延びる方法はないのではないかという当然の指摘もある。


    現在の、パレスチナ領やパレスチナ人の権利を全面的に否定する、宗教最右派(「宗教シオニズム」、「ユダヤの力」党など)と組んでいるネタニエフ首相(リクード)では無理であろう。彼自身も、米国議会での演説で、「ガザへの空爆や戦闘で、一人も非戦闘員は死んでいない」と事実とはかけ離れた、非現実的なことを述べていた。首相や一部政治家、軍人、宗教家は、パレスチナ人を「人間」と思っていない。

6月9日、ガンツ国防相(当時)は、軍事攻撃のみを進め、将来戦略を示さない首相と決定的に意見が合わなくなったとして辞任を発表した。ガンツ氏は、中道政党・国家団結党、「青と白」のリーダーである。

3) ここまでと関連づけて、2024米国の大統領選の先行きは

  1. 老老介護ならぬ「老老対決」は、バイデン大統領が2024年大統領選挙から撤退することで、一老(ドナルド・トランプ氏/共和党)と新人(カマラ・ハリス氏/現副大統領・民主党)との対決となった。

    7月13日、演説中のトランプへの暗殺未遂事件もあり(彼が英雄になったような写真が出回り)、トランプ優勢がさらに高まったといわれた。しかし、カマラ・ハリスが新しい民主党の大統領候補になるのが内定すると、トランプ警戒層、トランプ嫌悪層をふくめ、カマラ人気が、女性、黒人、アジア系、青年層、労働組合、ハリウッド芸能界などで高まってきた。ハリスもカリフォルニア時代の政治的上昇過程における「スキャンダル」など脛の傷がないわけではないが、いまのところ「後出しじゃんけん」効果もあり、トランプ支持に追いつき、追い越す勢いをもっている。まだ投票日まで約3か月あるので、何が起こるかわからない。候補者の病気、けが、米国特有ともいえないが候補者への暴力的攻撃、人気の浮き沈みなど、あらゆる可能性がある。

  2. 大統領候補が大事であるのは言うまでもないが、ラニング・メートとなる副大統領候補の人選もとても大切である。

    共和党・トランプ陣営は、副大統領候補に、ヴァンス上院議員(J.D.Vance。 オハイオ州出身。8月2日で40歳。米国のアパラチア・白人貧困地域で困難な状況の中、学歴とキャリアを高めた人物。自分の生い立ちを描いた著書もある。)を選んだ。トランプの当選に、北西部激戦州等での得票を増やすのに役立つといわれている。

    しかし、ヴァンスは「トランプより頭のよい、小型トランプ」ともいわれ、このマッチョな白人男性チームは、選挙全体を勝ち上がれるのだろうか。政治家に失言、変身はつきものであるが、ヴァンス氏は、そもそもトランプ批判で名を挙げたのに、「トランプすり寄り」に変わり、さらに「子どもを生まない女性=『猫好きの女性』への批判」、「こどもの数だけ親に投票権を」などの発言で、否定的な方向で目立っている。これでは、暴言、放言のトランプ氏が二人いるようで、共和党の選挙対策委員会もかなり頭を痛めているようだ。

    対する民主党・ハリス陣営では、共和党のミスを見て学びながら、副代表候補をシャピロ氏(ペンシルヴァニア州知事)など、ハリスの支持基盤を補完する候補を選ぶようで、これも後出し(有利)の立場が活きたといえるだろう。以上、米国大統領選挙関連。


 現在8月2日(文章執筆中)、イラン、あるいはレバノン・ヒズボラ、そしてハマスが、イスラエル攻撃をすぐにでも行おうとしている中(戦争は不可避)、またイスラエルも迎撃と攻撃の準備を進める状況下、今回は書けなかったウクライナ情勢(次回まとめます。)などもからみ、希望が見出しにくい2024年の8月以降である。


~続く~ 文責=熊岡路矢


*すこしいい傾向も見えた。2024年8月1日 冷戦後、最大の身柄(捕虜)交換が実現

身柄(捕虜・人質)交換より、平和や戦争をなくすべきという正論もあるが、「戦争の世紀」20世紀の始まりから120年(さらに以前からも)戦争、内戦、紛争、独裁はなくならない。今回のように多数の国が協力して成功させた対立国間での身柄交換は、さらに上位の停戦や停戦交渉に繋がりうる。

 

〈連載アーカイブ〉

パレスチナ・イスラエルに関わる紛争について(序)

パレスチナ・イスラエルに関わる紛争について(二)

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