おやこ映画祭 絆と狂気のカルテ|日本映画大学 映画・映像文化コース3年 上映企画ワークショップvol.3

おやこ映画の
カルテを並べて

日本映画大学映画・映像文化コース3年 企画運営リーダー
吉田大樹

本企画は日本映画大学映画・映像文化コースの3年生が受講している授業「上映企画ワークショップ」の一環として開催するものである。昨年2月の「めをと映画祭 愛と翳りの風景」に続いて、家族もの──とりわけ、映画の中の「おやこ」に焦点を当てている。

「おやこ」とは何であるか。

親は子孫繁栄のために子を育てるのか、もしくは、血の繋がりから子を育てたいと思うのか。いや、血の繋がりなど関係ないのか。子は親に何を思っているのだろう──おやこ映画を観るとそう思う。

では映画の外ではどうだろう。私が在るということは、ふたりの親の存在が在って、両親にもそれぞれふたりの親が在る。そうやって5世代さかのぼるだけで、その数は64人にも昇る。それだけ「おやこ」の生活が在り、その数の元にいまの私がいる。

そうして子であった私もこれから親に成り得る歳となり、映画の中のさまざまな「おやこ」を観るのであるが、環境や境遇が似てなくて一見遠い世界を描いているのに、何故か身近に思えてくるのがおやこ映画だ。彼らの絆に胸を高鳴らせ、彼らの狂気に打ち震える。正にスクリーンで映し出される映画を観る者があって初めて成り立つ映画祭であり、映画が共感のその先へと導いてくれるものになれば幸いです。

昨秋に原恵一監督を授業にお招きしたのが大きかった。「この学校なら『楢(楢)山節考』を比較上映したら面白いのでは?」というコメントをいただいた。それから学生企画書のコンペで「殺人映画祭」と「親子映画祭」が高得点を取った。これらのアイデアを総合して今回のラインアップとなった。「ほのぼの」から「親殺し」まで、厄介にして奥が深い「おやこ」に、この際きちんと向き合おうではないか。

日本映画大学教授・映画学部長
東京国際映画祭「アジアの未来」部門
プログラミング・ディレクター
石坂健治

2.10/土 狂気day

  • 17:25
    青春の殺人者
    ©1976 TOHO co., ltd

    1976/日本/116分/ビスタ/35mm
    監督:長谷川和彦 出演:水谷豊、原田美枝子

    実際の事件をもとに書かれた中上健次の短編小説「蛇淫」を映画化。父に任されてスナックを経営している青年・順は、ある日、店のウェイトレスで交際相手のケイと別れるように両親から迫られる。口論の末に、順は両親を殺害してしまうが…。長谷川和彦が監督した長編は本作と『太陽を盗んだ男』(79)のみ。(荒川)

  • 19:45
    渇き。
    ©2014「渇き。」製作委員会

    2014/日本/118分/シネスコ/DCP/R15+
    監督:中島哲也 出演:役所広司、小松菜奈

    深町秋生の小説「果てしなき渇き」を『嫌われ松子の一生』( 06)、『告白』(10)の中島哲也監督が映画化。刑事あがりの警備員・藤島は、コンビニで起きた大量殺人を目撃して間もなく、離婚した元妻から失踪した娘・加奈子の捜索を依頼される。加奈子を探していくなかで、今まで知らなかった娘の姿を知り、彼女をめぐる狂気の連鎖に巻き込まれていく…。中島監督が初めてどうしても撮りたい、撮らなければならないと思ったと語る一本。(羽田)

2.11/日・祝 原恵一feature day

  • 14:50
    楢山節考(1983)
    デジタル・レストア版
    ©今村プロ・東映

    1983/日本/131分/ビスタ/DCP
    監督:今村昌平 出演:緒形拳、坂本スミ子

    カンヌ映画祭パルムドール受賞作。「楢山参り」を翌年に控えた老婆・おりんはわが子の行く末を案じていた。長男辰平は不慮の事故で妻を失い、次男利助は酷い口臭で村中に蔑まれている。お参りの前に家族の問題を解決したいおりん。そんな折、辰平のもとに向村から後妻が嫁入りにやってきて…。廃村にオープンセットをつくり、3年の月日をかけて製作。広大な自然と、壮絶にして神聖な姥捨ての描出に息をのむ作品。(高橋・池永)

  • 17:30
    楢山節考(1958)
    ©1958松竹株式会社

    1958/日本/98分/シネスコ/35mm
    監督:木下惠介 出演:田中絹代、高橋貞二

    黄金期邦画界の名匠・木下惠介が、信州に伝わる姥捨て伝説を描いて、痛切な思慕の念を謳った作品。70歳を迎えた者は冬山に遺棄される風習のある山村。母のおりんは姥捨ては神に召される事だと尊ぶが、息子の辰平は母を山へ捨てに行くことに心中穏やかではない。葛藤するなか、ついにその日がやってくる。全篇撮影所でのセット撮影で、歌舞伎の口上や様式を取り入れた野心作。2012年カンヌ映画祭でデジタル修復版が上映。(高橋・池永)

  • 19:35
    クレヨンしんちゃん 
    嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲
    ©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2001

    2001/日本/89分/ビスタ/35mm
    監督:原恵一 声の出演:矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治

    「クレヨンしんちゃん」の映画シリーズ第9作目。大阪万博を始めとする高度成長期を懐古するモチーフをふんだんに盛り込んだ本作は、子供向けアニメでありながら、「大人も泣けるアニメ映画」として話題を呼んだ。その反響は凄まじく、同シリーズの社会的評価を一気に高めた。その裏には、単純な未来志向や懐古主義の否定に終始しない、監督の批評性が認められる。アニメであるからこそ、アニメの枠組みを越えて語られ続ける不朽の名作。(半矢)

2.12/月・振休 絆day

  • 14:50
    狐の呉れた赤ん坊(1945)
    ©KADOKAWA 1945

    1945/日本/85分/スタンダード/35mm
    主演:阪東妻三郎、橘公子

    戦後直後の1945年に公開された人情時代劇。キツネ狩りに行った寅八(阪東妻三郎)は捨て子を見つけ、善太と名付け育てる。最初は厄介がっていた寅八だが、次第に情がわき、酒や賭博、喧嘩から足を洗い、子どもの良き父親になっていく。ある時、善太を捨てた賀太野山(阿部九州男)という男が訪ねてきて、年に一度様子を見に来るようになるが、彼は一体何者で、なぜ善太を捨てたのか…その裏にある真実とは…。(白・武田)

  • 16:45
    狐のくれた赤ん坊(1971)
    ©KADOKAWA1971

    1971/日本/84分/シネスコ/35mm
    監督:三隅研次 出演:勝新太郎、大谷直子

    1945年『狐の呉れた赤ん坊』丸根版が公開された約25年後の1971年に、『狐のくれた赤ん坊』として三隅研次監督、勝新太郎主演によりリメイクされた。(白・武田)※あらすじは丸根版をご参照ください。

  • 18:40
    東京ゴッドファーザーズ
    ©2003 今 敏・マッドハウス/東京ゴッドファーザーズ製作委員会

    2003/日本/92分/ビスタ/Blu-ray
    監督:今敏 声の出演:江守徹、梅垣義明、岡本綾

    『パーフェクトブルー』(97)や『パプリカ』(06)で知られる故・今敏監督の、3作目となる劇場作品。シニカルな映像表現と複雑な構造のストーリーテリングで高く評価された本作も、数々の受賞に輝いた。コメディ色の強い本作だが、ご都合主義とも受け取れるほどの奇跡の連続というモチーフは、親子という否応無しに結びついた必然的な関係を象徴しているようにも見える。(半矢)

木下惠介監督は僕が最も尊敬し、今も影響を受け続けている監督です。黒澤、小津、溝口などと並ぶべきなのに、あまり語られなくなっていることが残念でなりません、木下版の『楢山節考』を観ればそのことが分かってもらえると思います。オールセット、見事な移動、色彩、音楽が相まって神聖とも云える映画になっています。是非ご覧ください。

原恵一
(映画監督)

「産んでくれと頼んだおぼえはない」という悪態を許す社会と許さない社会がある。悪態をつかなければみえてこない社会もある。「おやこ映画」はそれをみえるものにする。避けられないヴァイオレンス。子どもが選べないのは親だけじゃない。いつまでも選べない、選ばないままではいられない。

川崎賢子
(文芸・演劇評論家、立教大学特任教授)

2.10/土

17:25青春の殺人者116分
19:45渇き。118分

2.11/日・祝

14:50楢山節考(今村昌平監督)131分
17:30楢山節考(木下惠介監督)98分
19:35*クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲89分
*上映後トークイベント 原恵一(監督)

2.12/月・振休

14:50狐の呉れた赤ん坊(阪東妻三郎主演)85分
16:45狐のくれた赤ん坊(勝新太郎主演)84分
18:40*東京ゴッドファーザーズ92分
*上映後トークイベント 丸山正雄(映画プロデューサー)予定
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川崎市アートセンター

川崎市麻生区万福寺6-7-1 http://kac-cinema.jp

小田急線「新百合ヶ丘駅」北口より徒歩3分 ※駐車場はございません

前売券:800円(一般・学生とも) 2/9まで会場窓口にて販売
当日券:1000円
アルテリオシネマ会員:800円(ポイント対象外)
アルテリオシネマ招待券はご使用になれません。

※各回入替制・整理番号順入場・自由席・立見不可