「花火は下から打ち上げて、空で散開して祈りの花火になるが、同じ火薬を上から落とすと爆弾になってしまう。戦争による爆弾は敵を滅ぼし、経済を生むため、世界は花火より爆弾の方が多い。しかし、人間に爆弾をつくる力も花火をつくる力も同等にあるならば、爆弾ではなく、花火をつくる方向に向かおう」これは、映画『この空の花―⻑岡花火物語』で大林宣彦監督が作品に込めた言葉である。
『花火と爆弾』。
この二つは実に多くの映画に象徴的に登場する。
いま、東欧(ロシア・ウクライナ)、中東(パレスチナ・イスラエル)で勃発している戦争、そして中国・台湾問題に端を発するアジアを巻き込んだ不穏な世界情勢の中、同じ火薬から作られながら、使い方次第で人を楽しませも殺めもする “花火と爆弾” の登場する映画を見比べることで鑑賞者に戦争の意義と人類の選択する未来を問う上映会を企画した。
この上映会は日本映画大学の3~4年生が受講する授業「上映企画ワークショップⅠ」「同Ⅱ」の仕上げになります。企画コンペで決定した今年のタイトルは「花火と爆弾」。同じ原料から作られるのに天と地ほど違ってしまう両者を、さまざまな映画のなかで較べてみようというものです。花火映画と爆弾映画の諸相から何が見えてくるのでしょうか。
どうぞお越しください。
『この世界の片隅に』出演者に誤りがございました。つきましては下記の通り訂正をさせていただきます。深くお詫び申し上げます。
誤:キャスト:のん、細谷佳正、高田敏江、尾身美詞、小野大輔
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正:キャスト:のん、細谷佳正、尾身美詞、小野大輔
©1974/2019 松竹株式会社
監督:山田洋次/脚本:山田洋次、朝間義隆
キャスト:渥美清、吉永小百合、高田敏江、宮口精二
1974/日本/104分/シネマスコープ/DCP
シリーズ第13作。第9作『柴又慕情』(72)で陶芸家と結婚、幸せに暮らしている筈の歌子は、夫の実家で肩身の狭い思いをしていた。寅さんとの再会をきっかけに、自立を目指す歌子の女性としての生き方を描く。吉永小百合のマドンナ・歌子が登場し、寅さんは大ハリキリ。縁側で浴衣姿の歌子と見上げた花火。「浴衣きれいだね」花火のように打ち上がった寅さんの恋の行方は……。(竹内)
©KADOKAWA 1959
原作:大岡昇平/監督:市川崑/脚本:和田夏十
キャスト:船越英二、滝沢修
1959/日本/105分/シネマスコープ/DCP
『野火』(1959年、市川崑監督)は、大岡昇平の同名小説を、市川の妻でもある脚本家の和田夏十が大幅に脚色し、映画化したもので、日本兵が戦時下の極限状態で、もはや戦争の大義もなく、ただ生き続ける、そのために獣になる瞬間を鬼気として描いた作品である。戦後まだ14年という時に、作り手も、観る側も、おおいに問題を提起し、震える真実に迫った点、記録映像以上のドキュメンタリー性を感じることもできよう。 (横山)
©SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER
原作:大岡昇平/監督・脚本:塚本晋也
キャスト:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也
2015/日本/87分/ビスタ/DCP
『野火』(2015年、塚本晋也)もまた、大岡小説の映画化であるが、その実現までには様々な葛藤があったに違いない。戦後70年という節目に自らも戦後世代の監督が、その悲惨さをどう伝えるか。市川作品との比較に耐えられるか。『ゆきゆきて、神軍』(1987年、原一男監督)などともつながる戦場の実像の衝撃をいかに表現するか。「腐りゆく自分の匂い」(冒頭テロップ)を観る者に感じさせる工夫が、随所に現れた作品である。 (横山)
『鉄男』(89)で劇場映画デビュー。以降、国際映画祭の常連となる。俳優としても監督作のほとんどに出演するほか、他監督の作品にも多く出演。最新作『ほかげ』(23)では戦争を民衆の目線で描き、不穏な現代の世相に問うた
©今村プロダクション/林原グループ
原作:井伏鱒二/監督:今村昌平/脚本:石堂淑朗、今村昌平
キャスト:田中好子、北村和夫、市原悦子、三木のり平
1989/日本/123分/ビスタ/DCP
井伏鱒二の小説「黒い雨」(1966年刊行)を今村昌平が念願の映画化。人類史上前例のない「最悪の花火」=原子爆弾が広島に投下されたのち、空には黒い雨が降り注いだ。本作は一瞬に消えた命だけでなく、市井の人々の残りの人生も丹念に描いている。日本アカデミー賞では最優秀 作品賞や最優秀主演女優賞(田中好子)・最優秀音楽賞(武満徹)など多数受賞。カンヌ映画祭コンペティション出品作。(劉)
©2019こうの史代・コアミックス /「この世界の片隅に」製作委員会
原作:こうの史代/監督・脚本:片渕須直
キャスト:のん、細谷佳正、尾身美詞、小野大輔
2016/日本/129分/ビスタ/DCP
2007年から連載が開始されたこうの史代の漫画を片渕須直監督が劇場用アニメーション映画化。日本アニメ史上最長となる1133日のロングラン記録を打ち立てた。軍港の町・呉で少女時代を過ごした浦野すずは1945年8月6日の朝、広島方面から立ち上がる巨大な火柱とキノコ雲を目撃。正義の戦争と信じていたものの正体が暴力に過ぎなかったと思い至って戦後を生きていく。 キネマ旬報ベストテン日本映画部門第1位、アヌシー(仏)国際アニメーション映画祭審査員賞受賞作。(劉)
©2005 安岡フィルムズ/アジアプレス・インターナショナル
監督:古居みずえ/製作:安岡卓治(本学教授)、野中章弘/編集:安岡卓治、辻井潔(本学講師)
2005/日本/106分/スタンダード/DCP
ガザ地区難民キャンプで生まれ育ったパレスチナ人女性ガーダ・アギール。封建的な社会の中で自立する道を模索する彼女を追うのは、女性ジャーナリスト・古居みずえ。12年間で撮りためた500時間を超える映像には、言葉ではいい表せぬ市井で生きる人々の感情が刻印されている。いつ爆弾が落ちてくるかわからない恐怖。犠牲になった我が子の小さき手を握りしめる親の涙。しかし女性の視点で取材された本作に流れる古の詩歌には光が宿っている。(竹内)
古居:OLからフリーのジャーナリストとしてパレスチナへ渡航。特に女性や子どもたちに焦点をあて取材活動を続ける
安岡:『ゆきゆきて、神軍』(87)の助監督を経て、『A』(98)、『A2』(00)など数多くのドキュメンタリーをプロデュース
©poem
監督・脚本:黒木瞳/脚本:目黒啓太
キャスト:陽月華、朝加真由美、小木茂光
2022/日本/25分/ビスタ/DCP
突然、問題を抱えて帰郷したミキ。幼馴染の卯月と学生時代に続けていた手紙を見て、一緒に灯した線香花火の記憶が蘇る……。俳優・黒木瞳が故郷と友人をモデルに、ひとりの女性がつまずきから立ち直り一歩を踏み出す姿を描き出した短編映画。自分の意思と力で前を向くその瞬間を女性ならではの感性で謳いあげ、自然に恵まれた故郷の風景が優しく人々を包み込んでいく。それこそが映画監督・黒木瞳の眼差しに思えた。(竹内)
©KADOKAWA 1964
原作:子母沢寛/監督:池広一夫/脚本:犬塚稔、浅井昭三郎
キャスト:勝新太郎、久保菜穂子、遠藤辰雄
1964/日本/82分/シネマスコープ/35mm
甲州の宿場外れで鉄砲に撃たれた座頭の市を救ったのは、文吉の娘・お国であった。文吉は河原で花火を上げて近在の人々に喜んでもらおうと江戸から花火師を招いていた。文吉と川を挟んで対立していた安五郎一家が文吉一家に襲いかったとき、花火と市の居合い抜きが咲き乱れる。空は火祭り、下は血祭り、目にも止まらぬあばれ斬り! 勝新太郎の当たり役、本家・座頭市がスクリーンで大暴れ、さぁさぁとくとご覧あれ!(竹内)
©2011 「長岡映画」製作委員会 PSC 配給/TME PSC
監督:大林宣彦/脚本:長谷川孝治、大林宣彦
キャスト:松雪泰子、髙嶋政宏、原田夏希、猪股南
2012/日本/160分/ビスタ/DCP
戦災、震災、災害を乗り越えた復興の町、長岡。新聞記者・遠藤玲子は長岡花火大会を取材していくうちに、現在と過去が交差する不思議な体験を重ね、観客はいつしかリアルでファンタジーでセミドキュメンタリーでもある大林ワンダーランドに引き込まれていく。本作を含む「戦争三部作」と遺作の『海辺の映画館―キネマの玉手箱』(20)まで全て戦争を真正面からテーマとして扱った。大林監督が伝えたかったメッセージがここにある。(竹内)
大林:大林監督の長女。本作ではキャスティングにも参加。監督作に『100年ごはん』(14)。西洋食作法(国際儀礼)教室主催
熊澤:東宝株式会社入社後、市川崑監督などの助監督を務める。監督作に『天国からのエール』(11)、『ラオス 竜の奇跡』(17)
最悪の花火が原爆だ。
耽美より現実を好む今村昌平は井伏鱒二を愛読し、中でも「黒い雨」をいつか映画化したいと願っていた。還暦を過ぎ、弟分の浦山桐郎を失った今村は、念願の『黒い雨』を撮った。
初期今村映画は、敗戦とアメリカによる占領から生まれたものだ。日本を無条件降伏させた広島の原爆をどう描くべきか。唯一の被爆国の監督として撮ると宣言した今村は、松竹時代の仲間と組み、得意技を封印して徹底的に市民の立場から原爆の悲劇を描いてみせた(十年後、今度は得意技を駆使した『カンゾー先生』で再び原爆を撮ることになる)。
ノーランの『オッペンハイマー』を見た人は、ぜひ『黒い雨』をご覧いただきたい。
今世紀は平和であって欲しいという願いは、すでに2001年の「911」それに続く戦乱によって打ち砕かれてしまいました。2024年現在も、激しい殺戮と破壊がくりかえされています。その地には、今も仲間のジャーナリストたちが取材を続けています。機会が得られれば是非とも作品化したいと思いますが、悲惨な映像を見続け、編集することはいつも辛い仕事です。2005年に公開した『ガーダ パレスチナの詩』が現在も注目を浴びていることに複雑な思いがあります。本作をご覧頂きながら、今も戦火に苦しんでいる人々がいることを実感して下さい。
この度は『線香花火』の上映
とても嬉しく思います。
私が映画のロケ地を
故郷にしようと思った時に、
友人のお母さんが
線香花火の内職をされていたことを思い出しました。
線香花火は今輸入品が多く、
国産のものは数少ないそうです。
しかし今なお、福岡県のみやま市で
線香花火を手作業で作られています。
みやま市の線香花火を作っておられる方々に取材を
していくうちに、日本の伝統工芸の大切さに触れました。
線香花火は人生になぞられていて
美しさと儚さを兼ね備えています。
火薬というものを使って、
美しい花火を作る人たち、善と悪、両方併せ持つことをテーマにされた映画学部の方々の思いは、
素晴らしいと思いました。
この映画では、
癒しの時を感じていただけたらと思います。
どうぞお楽しみください。
15:20 | 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ104分 |
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17:30 | 野火(1959年版)104分 |
19:40 | 野火(2015年版)87分+トーク
ゲスト 塚本晋也※オンライン出演 |
14:10 | 黒い雨123分 |
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16:40 | この世界の片隅に129分 |
19:15 | ガーダ パレスチナの詩106分+トーク
ゲスト 古居みずえ※オンライン出演、安岡卓治 |
14:10 | 線香花火+座頭市 あばれ凧25分+92分 |
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16:30 | この空の花―長岡花火物語160分+トーク
ゲスト 大林千茱萸ほか調整中、司会:熊澤誓人 |
小田急線「新百合ヶ丘駅」北口より徒歩3分
〒215-0004 神奈川県川崎市麻生区万福寺6-7-1
※駐車場はございません
TEL:044-955-0107
公式サイト:https://kac-cinema.jp
全席指定席
ご鑑賞の3日前より購入可能(窓口:9時から/オンライン:10時30分から)
[各種割引なし・シネマ会員ポイントあり]