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芸人

平子 祐希

hirako yuki(アルコ&ピース)
あらゆる感情が商品になる
という不思議なお仕事

──そこからばく進が始まるわけですね。

いや~、そこからが長かったですね~。27で組んだものの、33までバイト生活でしたからね。
中野の小さな劇場でどんぐりが集まって「1位だ」「2位だ」ってやっているだけでしたけど、「この世界、肌が合うな」という感覚はありました。

──バイト生活にピリオドを打ったきっかけは?

『THE MANZAI』で3位に入賞したことです。そこからガラッと変わりました。バイトをやめるってことは芸人としては人生の一大ターニングポイントですね。

現場を終えて数週間
あるとき突然、霧が晴れる

──お仕事の醍醐味をお聞きしたいのですが。

笑いだけを追求している、根っからの芸人さんからすると、僕は〝異種〟と言うか、いけすかないところがあるんだと思います。
そこを誰かがいじって笑いに変えたときの僕の嫌がり方は、はた目にはおもしろいんだろうなという自覚はあります。

──ということは、ご本人の醍醐味はなんでしょう?

自分の喜怒哀楽、ありとあらゆる感情が全部商品になるってことですかね。たとえばバラエティで、心からしんどい思いをする。それが作品になって世に出ていって、誰かがそれを観て笑う。本人としてはすごく不思議な感覚です。

──達成感が想定外のタイミングで発生するわけですね。

「なんなんだ」という気持ちで収録を終えて、嫌な思いで家に帰って、嫌な思いで数週間過ごす。オンエアなんて僕、当然観ないので……。

──あ、観ないんですか(笑)。

ずーっと引きずっていると、ある日、「こないだのアレ、メチャメチャ面白かったです」って、自分の感情とは真逆の評価が飛び込んでくる。
もちろんそれは編集や制作さんの作業あってのことですけど。そのときに初めて数週間の霧が晴れるんですよ。そしてまた、次の日に嫌な思いをして……。

──とは言え、芸人をやめるつもりはないですよね?

つぶしが効かないですから。いまどの業界に飛び込んでもやっていける気がしないですよ。もちろん採ってももらえないでしょうし。

──消極的な理由(笑)。もちろん自虐ジョークだと解しています。

そうですね、いいこともあるからやめられないんですよ。たま~に、ですけどね。

オススメ! この1本

こんな笑いがあることにショックを受けた
『男はつらいよ』

シリーズすべて、4回以上観ているなかで決定的なのは、寅さんたちがひとつのメロンをめぐってケンカをするシーン(第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』。第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』にも挿入されている)。
登場人物全員に役割があって、人と人との関係性の微妙な距離感と呼吸から生まれる笑い。0.1mm、0.1秒でもズレたらああはならない。ギャグやドタバタコントがお笑いだという思い込みがひっくり返されました。
ああいうことがやりたくて、僕はいま、なんとか踏ん張っているのかもしれません。

[photo]久田路 2021年3月に行ったインタビュー

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