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2014.10.3

エリア・スレイマン監督による特別講演会を行いました

2014年9月27日(土)に、エリア・スレイマン監督をお招きして、特別講演会を開催しました。スレイマン監督はイスラエルのナザレに生まれた、パレスチナ人の映画作家です。来日に際して、本学での特別講演会のお願いを引き受けていただきました。
 まずスレイマン監督の代表作『D.I.』(2002年)の上映から始まりました。フランス・パレスチナの合作で、2002年のカンヌ国際映画祭で審査員賞と国際批評家連盟賞をダブル受賞した作品です。2003年には日本でも公開されました。

映画の前半で描かれるのはナザレでの生活。そこにいるのは質素でのんびりしているが、どこか騒がしい日常を生きる人々。中盤に差し掛かる頃、ようやくスレイ マン監督自身が演じる主人公が登場し、舞台がイスラエルとパレスチナ自治区を隔てる検問所に移ります。イスラエル領の東エルサレムに住む主人公は、パレス チナ自治区のラマラにいる恋人と、検問所近くの駐車場でしか会えません。検問所を抜けるチャンスを待つだけの二人。ついに主人公は行動を起こします。果た して、恋人たちは無事検問所を突破することが出来るのか?
 
約95分の映画上映が終了し、講演会がスタートしました。本学の土田環准教授が司会を務め、映画監督の藤原敏史氏に同時通訳をご担当していただきました。

エリア・スレイマン監督講義1

写真は左から通訳でお越しいただいた
映画監督の藤原敏史氏、エリア・スレイマン監督、
本学准教授の土田環氏

エリア・スレイマン監督2

このレクチャーで焦点となったのは、映画の政治的な背景以上に、スレイマン監督の映画作家としての映画に対する取り組み方や姿勢でした。まず話題になったのは、映画を作るようになったいきさつです。ナザレの学校を辞めた後、ニューヨークに移り住みます。ひょんなことから映画を見るようになったが、ゴダールのような「芸術的な」映画には馴染めなかったそうです。ニューヨークの名画座で映画を見続けるうちに、小津安二郎や、とりわけ候孝賢の映画を見たことから、自身も映画を作る可能性を見出しました。それからというもの、映画プロデューサーとの格闘の日々が始まった、とユーモアを交えて語られました。
 
そして、『D.I.』へとつながる、スレイマン監督流の演出法や映画製作の姿勢へとテーマが広がっていきました。『D.I.』では、始まってしばらくの間は物語らしい物語がなく、ナザレに暮らす人々の断片が淡々と描き上げられます。やがて主人公が登場して物語が走り出すものの、彼はサイレント映画のキャラクターのように、終始言葉を発することがありません。その沈黙は威厳や感情の機微を見せるものではなく、滑稽で情けないとすら思える無表情で、ストーリー展開を全く予想させません。
 
事実、前半のどこか混沌としたユーモアは、この無表情の主人公(そして同じく終始沈黙する恋人の女性)の登場から一気に加速し、VFXまで駆使したカオスへと向かっていくのです。ちなみに、プロデューサーのアンベール・バルザンの豪胆な手腕がエピソードとして飛び出しました。バルザンはロベール・ブレッソン監督の『湖のランスロー』(1974年)等に出演した俳優でもあります。
 
この映画の作風について、自身の劇映画第一作『消滅の年代記』(1996年)を引き合いに出して、事前に書いていた脚本部分を撮影した後、物語の起爆剤になるようなアクシデントが起きるまで撮影を中断して待つという演出法を披露しました。日常的な人間観察の積み重ねから生まれる緻密さと、偶然性に任せた無邪気な驚きをコラージュしていくスレイマン監督の自由奔放なスタイルが、映画『D.I.』の根源なのかもしれません。
 
聴講者からの質問にも答えていただきました。『D.I.』の舞台をナザレに選んだ理由、魅力的な固定ショットのバリエーション、主人公が喋らない理由等々…。スレイマン監督が映画を作る姿勢として強調していたのが、「日々の観察」と「自分自身を見つめ直すこと」でした。自分自身を振り返ることで、自己批判的に新しいアプローチを模索すること。そこに日常のユーモアを見逃さない観察眼と、偶然を味方にする大胆さが寄せ集まり、スレイマン監督の映画が形作られていくのだと感じさせられました。
 
劇中では終始無言で無表情のスレイマン監督ですが、講演会では止めどなく言葉が流れ出します。藤原監督のすばらしい通訳と相まって、慎重に編集されたテレビインタビューか、流麗な絵巻物を見ているかのように、あっという間に時間が過ぎていきました。
最後は参加者も一緒に記念写真を。
スレイマン監督、通訳の藤原監督、ならびにご来場いただきました皆様、
ありがとうございました。







(写真・文 入試広報部)

エリア・スレイマン監督3