NOW LOADING
本作は中国浙江省のボランティア消防士・阮炳炎さんの記録です。彼は40年以上にわたり、無償で村の火災に対応し、多くの命と財産を守り続けてきました。兄弟の中で三男であることから「阿三」と呼ばれ、さらに長年にわたる消防活動から「救火阿三」という愛称で親しまれています。
阮炳炎さんの家族は清朝時代(1820−1850)から続く旧家で、7代にわたり地域社会に貢献してきました。彼が住む築100年以上の古い家は、その歴史と伝統を今に伝えています。かつて彼の家は広大な土地を所有していた裕福な家でしたが、中国の土地改革期にその土地を国に捧げ、生活は一変しました。それでもなお、阮炳炎さんは自らの収入を消防設備の購入や消火活動に費やし、家族が受け継いできた責任感と行動力を守り続けています。
本作は彼の日常を通して、自分たちの共同体を必死に守ろうとする姿を描き出し、それが現代社会に問いかけるものを考察します。
1989年に、阮炳炎さんは自費でボランティア消防団を立ち上げました。村の若者を集め、消防機材を購入し、村の安全を守る活動を数十年にわたり続けてきました。普段の彼は、畑で油菜を育て油を絞り、鶏や牛を飼育するなど、他の農民と変わらない質素な暮らしを送っています。この選択の背景には、家族から受け継いだ地域社会への責任感と、幼少期に目の当たりにした火災の経験があります。彼は、火災に巻き込まれた人々の無力さを忘れることができず、少しでも助けになりたいと決意しました。
一方で、この活動は家族との対立を生む原因にもなりました。妻は、彼が村のことばかり気にかけ、家庭を顧みないと不満を抱きました。長男は彼の志を継ぎたかったものの、事故で障害を負い叶いませんでした。また、次男は、ボランティア消防活動では生活を支えることができないと考え、家族を養うために別の道を選びました。こうした葛藤や後継者の不在という問題は、彼が直面する大きな課題となっています。
阮炳炎
陳菊花
阮立生
阮立仁
監督・録音・編集:阮苓奕
プロデューサー・撮影:荆叙涵
協力:阮万敏、甘盼児、阮振牛、陳炳南、陳建清、郭焱、馬佳佳、百官町消防署、肖金村の皆さん、守内映子
<作品宣伝チーム>
統括連絡代表:阮苓奕
プレスリリース:阮苓奕
メインビジュアル:荆叙涵
予告編:阮苓奕、荆叙涵
SNS:荆叙涵
上映会宣伝チーム:阮苓奕、荆叙涵
「救火阿三」は、私にとって挑戦と発見の連続でした。この作品のきっかけは、祖父が語ってくれた阿三さんの話です。祖父は新聞記者として彼の活動を最初に取材し、その記事を通じて阿三さんの存在が広く知られるようになりました。この縁で撮影中には多くの協力が得られ、阿三さんの生き方や考えに触れることができました。
現代社会では、個人の努力や無私の奉仕が軽視されがちですが、阿三さんの行動はそれらの重要性を再認識させてくれました。この映画を通じて、観客にも「他者のために生きること」の意味を考えていただきたいと思います。
阿三さんは普段、畑で働き、家畜を育てる普通の農民ですが、消防活動への情熱と誇りは際立っています。彼は無償で地域に尽くし、多くの勲章と名誉を得ており、外から見れば完璧な成功者のようです。しかし、その裏には家族との葛藤や精神的な苦悩、信念を貫く中での困難が存在します。家族の複雑な思いを通じて、奉仕の崇高さが同時に抱える痛みや葛藤を感じました。
本来は、春夏秋冬といった季節を通して描くべきでしたが、限られた予算や時間の中での制作は容易ではありませんでした。その制約がむしろ作品をリアルにしたと感じています。この映画を通じて、観客の皆様が家族や地域とのつながりを新たな視点で考えるきっかけになれば幸いです。この物語が多くの方々の心に届くことを願っています。
監督・録音・編集:阮苓奕