2005.10.24

Category:OB

「初体験」多胡 由章(映画監督)

 

卒業してあっという間の十六年。よく撮影現場で“十年選手”という言葉を使うが、いつの間にか遥かに超えている…。そんなおっさんにもまだまだ世の中知らないことばかり。

 

今はどこでもIT関連に予算がつくらしく、映像界はちょっとしたネットドラマラッシュ。会う人皆が「今ちょっとネットシネマやってて」が口癖。元々僕のドラマデビューは5年前のネットドラマ。短編ドラマに興味もあり、依頼が来たときに二つ返事で引き受けたのが、新作「めいどinあきはばら」。判る人は分かると思うけど、今流行の秋葉原を舞台にした「メイド喫茶」のお話。

 

早速取材の為、秋葉原へレッツゴー。スタッフと待ち合わせの為一人で「メイド喫茶」へ入ろうとするが、やはり初体験は緊張するもの。お店の前を五分間行ったり来たりした後、断念してスターバックスへ。十代の頃初めてストリップ劇場へ行って以来のどきどき。
結局六,七軒の店に入ったのだが、そこで見聞きしたことは十回連載位の分量になる。スタッフ・キャストに詳細に伝え、作品に凝縮されているのでぜひ見て下さい。「メイド喫茶」と一口に言ってもメイドさんが給仕するという以外は各店様々な趣向を凝らしている。大きく分けて、話題作り系と癒し系。中でも象徴的な出来事を二つ。
オリジナル団扇を売っているお店があった。レジで会計の時に優しくメイドさんに勧められるのだが、一枚千円する。これを高いと思うかどうかが分かれ道。大半のお客(ご主人様)は皆何も質問せず千円札を差し出す。中にはちょっと悩んでいる人もいた。メイドさんも様子を見て「またの機会にお願いします」と引っ込めるが、ご主人様はすかさず「二枚お願いします」と二千円差し出した。彼は買うかどうか悩んだのではなく、何枚買うか悩んでいたようだ。多分使用するものと保存するものの二枚だろう。さらにネットで売る分を買うか悩んでいたのかもしれない。ここに趣味性を前面に押し出したこの業界のシステムが見える。

 

仲間のオタク達に聞くと、メイド喫茶はもう終わったと言う。「今は報道で興味を持った非オタクの人が大挙して押し寄せているだけ」取材中エロコスプレ屋から出てくると、女の子二人組に「ここメイド喫茶ですか?」と純粋なまなざしで聞かれてしまった。慌てて健全な(?)メイド喫茶を紹介したが、もし僕がいなければ、あの子達はあの店に入ってしまったのだろうか?
この体験を経て、印象的だったのはメイドさんもご主人様も一様に笑顔でいること。秋葉原は趣味の街「趣都(しゅと)」であると言う。これから世界は趣都化されるのでは、と感じた一夏の体験だった。この仕事をしていると、いつでも違う世界の初体験を味わえる。やめられない理由の一つでもある。
といった訳で完成した作品に興味のある人は十二月一日より以下のアドレス(http://www.netcinema.tv/)で配信されます。って宣伝になってしまった……。

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