2005.12.26

Category:講師

「穴掘り実習」山本隆世(俳優・演出家)

 

11月某日、快晴。
3年俳優科30名余、麻生区柿生、大根の収穫が済んだ後の畑地に、シャベルを携えて集結。
「穴堀り実習」とわたしが勝手に名付けた、ただ穴を掘る、ただそれだけの実習を敢行。
一応軍手を配給し、四人1組の班に分け、収穫前の長ネギの畝をそろそろ避けつつ、畑にスコップを立てる。掘削目標、自分の背丈まで!
来年2月に行う俳優科19期生の卒業公演の演目が決定したのは10月下旬。梁石日さんの傑作長編小説『夜を賭けて』を原作にお借りし、俳優科講師の河本瑞貴氏が脚色、わたしが演出を担当させていただき、青山円形劇場で上演することとなりました。
大阪造兵廠跡の広大な廃墟に忍び込み、地中に埋まる膨大な鉄を頑強な肉体で掘り起こす朝鮮人集落の人間たち。通称“アパッチ族”と呼ばれた彼らの、命を賭けた食うための闘い。そして、主人公・金義夫と初子の過酷な運命と純愛。
実は、8年前に「アパッチ水滸伝」のタイトルで、10期生の卒業公演で上演した演目でして、しかしながら原作が放つ苛烈なエネルギーと鋼のような強度を前に、わたし自身腰砕けになってしまった反省があったのですが、4年前に新宿梁山泊の金守珍さんが監督し『夜を賭けて』が映画化され、その後、金さんはじめ関係者の方々とさまざま交流させていただくうちに、もう一度という気持ちがむっくりもたげてしまったわけです。
性懲りもない再度のお願いにもかかわらず、梁さんにご了承をいただき、目下俳優科諸君と必死に再構築を図っているのです。
が、原作に描かれる強靭な肉体性は、鉄骨とコンクリートとレンガの瓦礫が埋まる廃墟を、ツルハシ・シャベルで二階家一軒ずっぽり入るほど掘るという圧倒的な獰猛さ。学生たちの多くが穴掘りの経験なしと聞いて、何も知らないよりはよかろうと慌てて実習に及んだものの、石ころひとつ無い大根畑の肥沃な黒土を、取り急ぎ一人では出られない程度掘ったと言っても、鼻息で飛ばされる脆弱さ。
マラソンのスタート一歩目ほどの前進ですが、来年2月、学生たちがどのように変貌してくれているか…改めて顔面蒼白になりながら、稽古に励む毎日です。

 

尚、「穴を掘って埋める? 変わった実習ですね」と苦笑されながらも、快く畑を貸してくださいました安藤さん、ありがとうございました。茹でたてのサツマイモを差し入れてくださいました安藤さんの奥さん、たいへん美味しゅうございました。
この御礼は、2月青山でと念じつつ。

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