2008.11.18

Category:OB

「リンダ リンダ」中井邦彦(助監督)

 

昨年、とある人材派遣会社でアルバイトをしていた時のこと。
僕は運送会社に派遣され、お歳暮の仕分け作業をしていた。大きな集配場の中で、ベルトコンベアーの前にアルバイトが等間隔で立ち、流れてくるお歳暮の荷札を確認して、自分が担当する住所の物だけをピックアップしていく。黙々と作業を続ける僕の後ろで、異様に荷札に顔を近づけている人がいた。
目を皿のようにするとはこの事だと言わんばかりに、顔を近づけて荷札を確認しようとしているのだが、次々と流れてくる荷物に対応しきれず、幾度となく取り損ねては、後ろに控えている社員に怒鳴りつけられていた。どうやらそのおっちゃんは、極端に目が悪い上に眼鏡を忘れてしまったようなのだ。

 

「あぁ、いるいる変なのが」
この人材派遣のアルバイトに必要なものはただ一つ、人並みの体力だけだ。だから色んな人がいる。
正確にいうと色んなダメな人がいる。そのうちの一人である、今世界で最も眼鏡を欲しているおっちゃんと、僕はなるべく関わらないようにして作業を続けた。

 

休憩時間になり、コンビニで買ってきたパンを食べた。安さ重視で買った為、正直あまり美味しくない。三日連続同じものは流石にきついね。そんな事を考えながら、とりあえず口に押し込んでいると、先ほどのおっちゃんが食事をしているのが目に留まった。おっちゃんは自分で握ってきたらしい、いびつなおにぎりを食べていた。

 

「独身か、寂しいもんだな」
そう思いつつ、しばらく観察していると、おっちゃんはおにぎりを食べ終えて、丁寧に包みを折りたたみ、合掌した。ごちそうさまでした、そう呟きながら手を合わせたのである。
その姿に僕はかすかな衝撃を受けた。美しい。そう思った。
何百人と働いているこの集配場で、食事に対して手を合わせる事のできる人間がいったい何人いるだろうか。
射し込む西陽の中で、その姿は神々しくさえ見えた。それと同時に恥ずかしくなった。勝手にダメな人と決めつけてしまった自分が恥ずかしくなった。僕は日々の糧に感謝する事すらできない人間だった。

 

美徳は金を生まない。美徳で飯は食えない。仕事が出来るか出来ないか、社会はそういう基準で人を判断しがちであり、僕も仕事が出来る人間になりたいと思う。しかし休憩が明けて、再び怒鳴りつけらながらも必死に荷札を確認しているおっちゃんは、やはり美しかった。

 

(日本映画学校 映像科18期生)

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