2013.12.24

Category:OB

「全部嫌いだった。」加瀬仁美(脚本家)

『なにもこわいことはない』公開前祝いに急遽集まってくれた、大好きな丸内ゼミ同期のみんな。 写真右:本作配給宣伝・中野香、右から2番目:加瀬仁美(撮影:吉田悟至)

 

 

映画ごっこみたいな実習も、映画になんてまるで興味のない同期たちも、飲んだくれの講師たちも、ぬるま湯に浸かっている自分も、みんな大嫌いだった。

 

映画を観ることだけは好きだった。時間さえあれば、時間なんてなくても、隙をみては映画を観ていた。今まで生きてきて、何の苦もなくできるのは、映画を観ることだけだ。

 

ブレッソン、ビスコンティ、アンゲロプロス、ギタイ、タランティーノ、スコセッシ、溝口、エドワード・ヤン、侯孝賢ーー面白い。楽しい。胸が熱くなる。悲しい。切ない。涙が止まらない。すごい。傑作だ。大好きだ!
そんな映画に、何度も救われてきた。

 

人生に一本でいい、こんな映画を作りたい。
どうすればいいのか。

映画は学校で学べるのか。

 

「お前の書いた脚本を面白いと思ったことは一度もない」
「ヒロイックになりすぎてないか?」
「特権意識が鼻に付く」
「生意気だ」
脚本を書いては、講師陣に散々なことを言われた。
悔しかった。

 

あんたたちなんて超えてやる、と思った。
小さな学校の小さな世界での評価なんてどうでもいい。私はブレッソンと勝負するんだ。アンゲロプロスと並ぶ傑作を作るんだ。と。

 

そんな思いで卒業後、自主映画を撮った。
出来上がった映画には、たくさんの大好きな映画の記憶が、いくつも散りばめられていた。

 

その後現場に出て、知り合った監督・プロデューサーから、脚本の仕事をチラホラもらえるようになった。
あの映画のあのシーンのような鮮烈なものを、と思って書いた。

 

ブレッソンと勝負するのは並大抵のことじゃないということはとりあえずわかったけど、それ以外にもちょっとだけわかったことがある。
きっと必要なのは、映画的記憶、映画体験、それでしかないのだと。

 

面白い映画を作るためにこれほどまで粘るのだという姿勢を、サトウトシキさんから教わった。
「ト書きには動作だけを書け、感情を書くな」と丸内敏治さんに言われた。
「プロットに引きずられてはいけない」と小川智子さんに言われた。
「食事のメニューを全て書け。味噌汁の具に何を入れるのかで、キャラクターが決まるんだ」と荒井晴彦さんに言われた。
「悲しみを書け。お前は悲しみの作家になれ」と渡辺千明さんに言われた。
「高いところから他人を見下していないか?同じ土俵に立ってみろ」と安藤尋さんに言われた。
「続けることも才能だ。10年続けてみろ」と斎藤久志さんに言われた。

 

今ふと気付くと、自分の脚本を書くとき、それらの全てを守りながら書いている。

 

たぶん、大嫌いな学校で、たくさんの映画体験をしていたのだ。

 

映画は学べるのか、答えは出ない。

 

卒業して7年経つ。
まだ映画を続けている。
(日本映画学校19期生)

 

「なにもこわいことはない」ホームページ>> http://kowaikotohanai.com/

K’s cinemaでのトークショー予定
12月28日(土)  中原昌也(作家・ミュージシャン)、斎藤久志
1月11日(土)  矢崎仁司(映画監督)、斎藤久志
1月 12日(日)  やまだないと(漫画家)、斎藤久志
1月 13日(月・祝)  七里圭(映画監督)×斎藤久志
1月 17日(金)  長谷川和彦(映画監督)、斎藤久志
全て上映終了後

 

 

 

 

 

 

 

 

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