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ようこそ
恋愛の墓場へ

日本映画大学理論コース3年 上映企画ワークショップ vol.2 企画リーダー
相原柊太

本企画は日本映画大学理論コース3年生が受講している授業「上映企画ワークショップ」の一環として、昨年2月の「ベランダから見える風景 映画の中の団地」に引き続き開催するものである。

「結婚は人生の墓場」と称されることがある。きっとそうなのかもしれないと結婚生活など知る由もない学生の私に思わせたのは映画であった。映画の中で「夫婦」は嘘をつき合い、罵り合い、憎しみ合い、苦しみ合っていた。もっと言えば映画が生まれる前から大衆は夫婦の間に存在する「恐怖」を娯楽として親しんでいたのではないか。

日本での有名な作品の例で言えば鶴屋南北の『東海道四谷怪談』だろう。本作の「恐怖」はお岩が化けて出てくる前から伊右衛門とお岩の夫婦の間に既に存在していたのだ。今回の映画祭は、そんな夫婦の恐怖を描いた作品を中心に特集を組んでみたいと思う。

様々な夫婦を覗き見て「恐怖」に慄き、無邪気に楽しむのも、「苦しみ」を感じ取って今後の人生の予行演習にするのもありだろう。もちろん今の時代にやらなければならない意義などは無い。だがそんなことは関係ない。なぜなら人々はいつの時代も夫婦の恐怖を求めている。そうでなければこんなにたくさんの「墓場」を描いた作品が生まれているわけなどないのだから。

めをと映画祭に寄せて

「映画館で3日間/9本の上映/トークショー付き」という条件のもと、日本映画大学理論コース3年生全員が各自の企画書を競いました。その末に決定したのがこの特集上映です。作品選定、出品・出演交渉、印刷物作成から広報宣伝、当日宣伝まで、すべて学生たちが主体で運営する映画祭です。みなさま、どうぞご贔屓に!

日本映画大学教授
東京国際映画祭「アジアの未来」部門
プログラミング・ディレクター
石坂健治

2.10/金上映作品

  • 14:50
    ©1953東宝

    監督:成瀬巳喜男 出演:上原謙、高峰三枝子
    1953/日本/96分/スタンダード/35mm

    林芙美子の小説『茶色の眼』を脚色・映画化。前作『夫婦』(53)に続き倦怠期にある夫婦の姿を描く。課長という役職にありながら生活苦に喘ぐ会社員・中川十一と妻・美種子の関係は10年の生活の中で既に冷え切っていた。次第に十一は同じ会社に勤める未亡人・房子に惹かれ始め、とうとう彼女と関係を持ってしまう。それに気付き十一からもその事実を告白させた美種子は、夫に対して強い執着心を抱くが…。(河合)

  • 16:55
    こわれゆく女A Woman Under the Influence
    ©1974 Faces International Films,Inc.

    監督:ジョン・カサヴェテス 出演:ジーナ・ローランズ、ピーター・フォーク
    1975/アメリカ/147分/ビスタ/35mm

    米インディペンデント映画の父と称されるジョン・カサヴェテスの代表作。愛と痛みが同居する夫婦ドラマ。土木作業員の夫ニックにピーター・フォーク、その妻メイベルにカサヴェテス夫人であるジーナ・ローランズという配役の妙も特筆もの。主婦メイベルはその強すぎる愛情をコントロールできずにいるが、ある日夫が仕事の都合で帰宅できなくなり、それがきっかけで精神の崩壊が加速していく。そしてついにはニックまでも…。(前原)

  • 19:50
    下女The Housemaid
    ©金東遠

    監督:キム・ギヨン(金綺泳) 出演:キム・ジンギュ(金振奎)、イ・ウンシム(李恩心)
    1960/韓国/108分/スタンダード/DVCAM

    映画史上に輝くキム・ギヨン「女シリーズ」の原点にして頂点にそびえる衝撃作。念願のマイホームを手に入れた幸せな音楽家の4人家族。それも束の間、新しく雇ったメイドとの不倫の果てに待っていたのは身も凍る報復だった…。延々と続く子どもらの綾取り、樹木を打ち砕く突然の落雷、台所に出没するネズミなど、不気味と恐怖が次々と観客に襲いかかる! 2015年に発表された「アジア映画オールタイムベスト100」(第1位『東京物語』、第2位『羅生門』)で韓国映画最高の第9位にランクインした。

2.11/土・祝上映作品

  • 14:25
    フレンチアルプスで起きたことTurist
    ©Fredrik Wenzel

    監督:リューベン・オストルンド 出演:リーサ・ローヴェン・コングスリ、ヨハネス・バー・クンケ
    2014/スウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェー/118分/シネスコ/DCP

    第67回カンヌ映画祭「ある視点」部門審査員賞をはじめ多くの映画賞に輝いた北欧の話題作。休暇でフランスの高級リゾートにスキー・バカンスに来たスウェーデン人の4人家族が、雪崩をきっかけに家族が崩壊する危機を迎え、家族関係に隠されていた様々な問題があらわになっていく…。スウェーデンの名匠リューベン・オストルンド監督は前作『プレイ』(11)で東京国際映画祭最優秀監督賞を受賞した実力派。(程)

  • 16:50
    死の棘
    ©松竹・松竹第一興行

    監督:小栗康平 出演:松坂慶子、岸部一徳
    1990/日本/115 分/ビスタ/35mm

    世界的な評価を得た小栗康平による「戦後三部作」の締めくくりの本作。戦争という混迷の時代に出会い、強く紡がれた夫婦の絆は夫の浮気によって断ち裂かれる。妻は精神に異常をきたし、夫への執拗な叱責が始まる。発作的に狂う妻を体当たりで演じる松坂慶子の凄み、 夫婦の物語とは思えぬ恐怖演出、描かれた絶望の中の美しさにより 90年のカンヌ映画祭で審査員グランプリと国際映画批評家連盟賞をダブル受賞する快挙を成し遂げた。(茂垣)

  • 19:15
    グブラGubra
    sakuhin6

    監督:ヤスミン・アフマド 出演:シャリファ・アマニ、アドリン・ラムリ
    2006/マレーシア/113分/ビスタ/35mm

    日本にも熱狂的なファンを持つ故ヤスミン・アフマドが女優シャリファ・アマニとともに撮り続けた、少女の成長物語「オーキット4部作」の1本。前作『細い目』(04)で恋人ジェイソンを事故で亡くしたオーキットは広告業界のエリートと結婚したが、夫の浮気を疑っている。そんな折にジェイソンの兄アランと出会い惹かれるようになっていく…。様々な民族や宗教が共存する社会における結婚生活の光と影を繊細に掬い上げたマレーシア・ニューウェイブの金字塔。グブラとは「不安」の意。

2.12/日上映作品

  • 14:25
    下女The Housemaid
    ©金東遠

    監督:キム・ギヨン(金綺泳) 出演:キム・ジンギュ(金振奎)、イ・ウンシム(李恩心)
    1960/韓国/108分/スタンダード/DVCAM

    映画史上に輝くキム・ギヨン「女シリーズ」の原点にして頂点にそびえる衝撃作。念願のマイホームを手に入れた幸せな音楽家の4人家族。それも束の間、新しく雇ったメイドとの不倫の果てに待っていたのは身も凍る報復だった…。延々と続く子どもらの綾取り、樹木を打ち砕く突然の落雷、台所に出没するネズミなど、不気味と恐怖が次々と観客に襲いかかる! 2015年に発表された「アジア映画オールタイムベスト100」(第1位『東京物語』、第2位『羅生門』)で韓国映画最高の第9位にランクインした。

    ※当初上映予定だった『ハネムーン・キラーズ』は都合により『下女』に変更しました

  • 16:45
    四谷怪談 お岩の亡霊
    ©KADOKAWA 1969

    監督:森一生 出演:佐藤慶、稲野和子
    1969/日本/93分/シネスコ/35mm

    鶴屋南北『東海道四谷怪談』を森一生監督が戦後7回目の映画化。他の映像化作品の中でもほぼ原作通りの仕上がりとなっている。元藩士の民谷伊右衛門と妻のお岩は、惨めな浪人生活を送っていた。伊右衛門は出世のため、伊勢屋の一人娘に取り入る。それをお岩の父に知られ、伊右衛門は彼を斬り殺すのだが…。伊右衛門役の佐藤慶が、我欲を貫くニヒルな悪役を好演している。また、夫に裏切られ、亡霊と化したお岩を稲野和子が熱演し、見る者を恐怖させる。(小池)

  • 18:50
    インフェルノ 蹂躙
    ©日活

    監督:北川篤也 出演:立原麻衣、白石ひとみ
    1997/日本/84分/スタンダード/DVD

    『美姉妹』(95)で日活ロマンポルノの精神を継承した北川篤也の異端のVシネマ。独り暮らしの OL を盗撮・盗聴の末に惨殺した夫婦は彼女の友人を装い妹に近づく。同化する姉妹、美味しすぎるシチュー、獰猛な大型犬。J ホラーとは異なる「もう一つの恐怖劇」の可能性を切り開いた、脚本家・高橋洋の真骨頂。DVD 化されておらず、上映される機会もほとんどないため、恐らく今回のラインアップで最も視聴困難な作品となっている。是非この機会にお見逃しなく!(『狂気の海』公式HPより引用。相原追記)

昨年、マレーシアのペナン島で『鳩 Pigeon』(「アジア三面鏡2016:リフレクションズ」の中の一篇)という中篇を撮りました。主演のシャリファ・アマニさんは素晴らしくキュートな女優。彼女が私のリスペクトする監督のひとり、故ヤスミン監督の『グブラ』で演じるのは夫の浮気に悩む若妻という役どころ。必見!

行定勲
(映画監督・脚本家)

結婚は人生の「墓場」かもしれないというのが、「めをと」企画の鍵だろう。明治時代には北村透谷という天才詩人がいて、近代的な「恋愛=結婚」を実現してみたものの、そこはなぜか「墓場」のようだと気づいてしまった。わかっているのに繰り返される夫婦のドラマがホラーに似てくるのはそのせいか。

川崎賢子
(文芸・演劇評論家、日本映画大学教授)

2.10/金

  • 14:50 妻96分
  • 16:55 こわれゆく女147分
  • 19:50※ 下女108分
※上映後トークイベント:真魚八重子(映画評論家)

2.11/土・祝

  • 14:25 フレンチアルプスで起きたこと118分
  • 16:50 死の棘115分
  • 19:15※ グブラ113分
※上映後のトークゲストが、斎藤久志氏から石坂健治氏(映画祭ディレクター、日本映画大学教授)に変更となりました

2.12/日

  • 14:25※ 下女108分 ※当初上映予定だった『ハネムーン・キラーズ』は都合により『下女』に変更しました
  • 16:45 四谷怪談 お岩の亡霊93分
  • 18:50※ インフェルノ 蹂躙84分
※上映後のトークゲストが、高橋洋氏から佐々木浩久氏(映画監督)に変更となりました
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川崎市アートセンター

川崎市麻生区万福寺6-7-1 http://kac-cinema.jp

小田急線「新百合ヶ丘駅」北口より徒歩3分

  • 前売り券:800円(一般・学生ともに) 2/9まで会場窓口にて販売
  • 当日券:1000円
  • アルテリオシネマ会員:800円(ポイント対象外)
  • ■各回入替制・整理番号順入場・自由席・立見不可
  • ■アルテリオシネマ招待券はご使用になれません
  • ■駐車場はございません