ディストピアを撃て!映画祭|日本映画大学 映画・映像文化コース3年 上映企画ワークショップvol.4

さよなら、
昨日までの今日。

企画リーダー 日本映画大学映画・映像文化コース3年
澤木悠紀奈

本企画は、日本映画大学映画・映像文化コースの3年生が受講している授業「上映企画ワークショップ」の一環として開催するものである。

管理社会。様々な思惑の下で成立したこの牢獄の中で、フィクションの登場人物たちは、わたしたちと変わらずに息を吸い、変わらずに吐いている。

管理社会における社会・文化の形成は、国や時代によって共通している部分もあれば、想像できないほどに異なっている部分もある。わたしたちの世界が行き着く先にあるかもしれない if の世界。もしくは、過去の選択においてありえたかもしれない、もうひとつの世界。――そんな世界で「わたし」が生きることになったら。

この映画祭で上映する作品は、全てわたしたちの世界が辿るかもしれない/辿ったかもしれない、世界の一例なのだ。決して他人事ではない、訪れるかもしれない『もしも』の明日。ここにセレクトしたのは、そんな明日に飲み込まれないための、ささやかな警鐘を鳴らす映画たちである。

ディストピアを撃て!映画祭に寄せて

学生たちによる企画コンペでは、「ディストピア=近未来」と「隣人」が競り合った。過去に団地、夫婦、親子と一連のシリーズのように上映を開催してきたので、その流れで、映画にあらわれる隣人の不気味さに震撼するのもありかと思ったが、ハナの差でディストピア企画の切実さがまさった。今回は上映権の交渉が大変で、料金が高いメジャーなもの、会社が倒産していてNG、上映期限切れなど、しばし壁に突き当たった。PFFのアルドリッチ特集でも話題になっていたが、円盤ソフトや配信で映画を観ることの容易さに比べ、いまや映画館で映画を上映することのなんとハードルの高いこと! そんななか、ブレのない9本のラインアップを集められたのは僥倖だった。ステキなゲストの方々のお話も楽しみだ。

日本映画大学教授・映画学部長
東京国際映画祭「アジアの未来」部門
プログラミング・ディレクター
石坂健治

2.9/土 伊藤計劃3本立てDay

  • 14:45
    屍者の帝国
    『屍者の帝国』©Project Itoh & Toh Enjoe / THE EMPIRE OF CORPSES

    2015/日本/120分/ビスタ/DCP/R15+
    監督:牧原亮太郎
    原作:伊藤計劃、円城塔
    声の出演:細谷佳正、村瀬歩

    PROJECT ITOHの第1作目。時代は19世紀末。ヴィクター・フランケンシュタインによって屍体の蘇生技術が確立され、屍者が世界の産業を支える時代が到来していた。そんな世界で暮らすロンドン大学の医学生・ワトソンはある日運命に出会う。政府の諜報機関「ウォルシンガム機関」の指揮官「M」。そして、屍者たちの王、カラマーゾフ。冒頭の草稿30枚を残して早逝した伊藤計劃の物語を、生前親交の深かった円城が書き継いだ一作。

  • 17:10
    虐殺器官
    『虐殺器官』©Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN

    2015/日本/114分/ビスタ/DCP/R15+
    脚本・監督:村瀬修功
    原作:伊藤計劃
    声の出演:中村悠一、櫻井孝宏、小林沙苗

    夭折の作家、伊藤計劃のデビュー作にして最高傑作と名高い『虐殺器官』。PROJECT ITOHと銘打たれた映画化プロジェクトの第3弾。世界中で発生する紛争や大量虐殺に関わっているといわれる謎の男、ジョン・ポールと米軍特殊暗殺部隊に所属するクラヴィス・シェパード。ジョンとクラヴィスが交差するとき、クラヴィスは初めて自分の内に飼う葛藤と向かい合うことになる。(澤木)

  • 19:30
    ハーモニー
    『ハーモニー』©Project Itoh / HARMONY

    2015/日本/119分/ビスタ/DCP/PG12
    監督:なかむらたかし、マイケル・アリアス
    原作:伊藤計劃
    声の出演:沢城みゆき、上田麗奈

    PROJECT ITOH第2作。〈大災禍〉によって一度崩壊を迎えた世界は、資本主義社会から国民の健康を第一とする医療福祉社会へと姿を変えた。病気もなく、誰もが健康で思いやりという優しさに包まれた暖かな近未来社会。そして、このユートピアに殺された少女、御冷ミァハ。世界保健機構の螺旋監察官である〈わたし〉霧慧トァンが死んだはずのミァハの幻影を追いかける。トァンが追いかけた先にあるものとは。(澤木)

2.10/日 「十年」比較Day

  • 14:45
    バトルロワイアル【特別篇】
    『バトルロワイアル』©2000「バトル・ロワイアル」製作委員会

    2001/日本/122分/ビスタ/35mm/R15+
    監督:深作欣二
    編集:阿部亙英(日本映画大学教授)
    出演:藤原竜也、前田亜季

    新世紀のはじめ、ひとつの国が壊れた。相次ぐ少年犯罪で自信を失くし、子供を恐れた大人たちは強い大人の復権のために、ひとつの法律を制定した。新世紀教育改革法、通称BR法。それは年に一度、全国の中学3年生から1クラスが選ばれ、コンピュータ管理された脱出不可能な無人島で3日間、最後のひとりになるまで殺し合いをさせるものだった。今年選ばれた岩城学園3年B組の42人はそれぞれの死闘を始める。過激な暴力描写が議論を巻き起こしたティーン映画の傑作!(久米)

  • 17:15
    十年 TEN YEARS
    『十年 TEN YEARS』©2017 Ten years Studio Limited.All Rights Reserved.

    2015/香港/108分/ビスタ/DCP
    監督:クォック・ジョン、ウォン・フェイパン、ジェヴォンズ・アウ、キウィ・チョウ、ン・ガーリョン

    香港の新鋭監督5人が僅か750万円で製作した、5本の短編からなるオムニバス映画。世界中の映画祭を騒がし、その後日本・タイ・台湾へと派生していくことになった「十年」プロジェクトの第1弾。2015年から数えて10年後の香港が直面するであろう様々な問題を、それぞれの監督が全く異なるスタイルで描いている。共通しているのは、身近な風景の中に立ち込める不穏な空気。映し出されているのは、この世界に訪れる、現実のディストピア。(久米)

  • 19:30
    十年 Ten Years Japan
    『十年 Ten Years Japan』©2018 “Ten Years Japan” Film Partners

    2018/日本/99分/ビスタ&シネスコ/DCP
    監督:早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶
    エグゼクティブプロデューサー:是枝裕和

    10年後の日本を題材に、5人の若手作家によって作られたオムニバス映画。是枝裕和監督が総合監修をつとめ、國村隼、杉咲花、池脇千鶴らのキャストが各エピソードを彩る。75歳以上の高齢者に安楽死を奨励する未来を描く「PLAN75」(早川)や、国家戦略IT特区となり、AIに道徳教育を受ける田舎町の小学校を舞台にした「いたずら同盟」(木下)などが日本の近未来に警鐘を鳴らす。『十年 TEN YEARS』(香港)に触発されてはじまった「十年」国際プロジェクトの第2弾=日本版。(前澤)

2.11/月・祝 アンドロイドDay

  • 14:45
    メトロポリス
    『メトロポリス』©手塚プロダクション|METROPOLIS製作委員会

    2001年/日本/107分/ビスタ/35mm
    監督:りんたろう
    脚本:大友克洋
    原作:手塚治虫
    声の出演:井元由香、小林桂

    人間とロボットが共存する巨大都市国家メトロポリス。有力者レッド公が亡き娘を模して造らせたロボット兵器、ティマは自分を人間だと信じるが…。「私は人間なのですか?」「お前は人間などではない。感情や情緒に流され、愛や道徳に迷う下等な生物ではない。超人なのだ!」。暴走し、人類に牙を剥くティマ。「聞いたかレッド公、お前の造った超人は人間は要らんと言っとるぞ!」。総作画枚数15万枚。圧倒的映像美の大傑作。(松島)

  • 17:00
    GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊[2.0]
    『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊[2.0]』

    2008/日本/85分/ビスタ/HDCAM又はBD
    監督:押井守
    声の出演:田中敦子、大塚明夫

    サイボーグが一般化し、脳から直接ネットワークに接続できるようになった近未来。凶悪化する国際犯罪を取り締まる政府直属の非正規特殊部隊、公安9課・通称“攻殻機動隊”は、政府認定プログラマーの亡命を阻止する任務を遂行していくなか、国際指名手配される凄腕のハッカー、「人形使い」の存在を知る…。士郎正宗の同名SFコミックを原作とする作品で、最近アメリカで実写映画化された。1995年の公開版をリニューアルした[2.0]版を上映。(笠松)

  • 18:50
    さようなら
    『さようなら』©2015「さようなら」製作委員会

    2015/日本/112分/ビスタ/DCP/R15+
    脚本・監督:深田晃司
    原作:平田オリザ
    出演:ブライアリー・ロング、ジェミノイドF

    原発の同時爆発によって放射能に侵された日本。避難かなわず、最期の時を待つ病床のターニャに、世話役のアンドロイド、レオナは谷川俊太郎やランボーの詩を読む…。「あのさ、私、多分、もうすぐ死ぬと思う。だからもう少し、なにか、励ます詩を読んで」「いざ行かむ 行きてまだ見ぬ山を見む そのさびしさに 君は耐ふるや(若山牧水)」。人間とアンドロイドの競演に注目。平田オリザのアンドロイド演劇を、『淵に立つ』でカンヌ映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した深田晃司が映画化した問題作。(松島)

幼い頃、映画の中の空飛ぶ車を見ながら、いつか訪れる未来にワクワクした事を覚えています。しかし今回、現在と地続きの近い未来に対して、私は無責任に明るいだけの世界を描く事は出来ませんでした。ただ絶望しているわけではなく、未来に希望を持って作りました。

藤村明世
(映画監督/『十年 Ten Years Japan』より「その空気は見えない」)

ディストピアとは、単なる悪い未来ではなく、住んでいる人の大半がユートピアだと信じているひどい世界を描き、「自分の世界もそうかも」とゾッとさせる芸術的な技法である。しかも、その不安と恐怖と懐疑の中に、享楽がある。それがディストピア映画の秘密だ。

藤田直哉
(SF・文芸評論家、日本映画大学講師/著書『シン・ゴジラ論』『娯楽としての炎上』など)

2.9/土

14:45屍者の帝国R15+ 120分
17:10虐殺器官R15+ 114分
19:30*ハーモニーPG12 119分
*上映後トーク:小川哲(SF作家/『ゲームの王国』日本SF大賞・山本周五郎賞受賞)

2.10/日

14:45バトルロワイヤル【特別篇】R15+ 122分
17:15十年 TEN YEARS108分
19:30*十年 Ten Years Japan99分
*上映後トーク:藤村明世監督(「その空気は見えない」~『十年 Ten Years Japan』)

2.11/月・祝

14:45メトロポリス107分
17:00GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊[2.0]85分
18:50*さようならR15+ 112分
*上映後トーク:深田晃司監督(『さようなら』)
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川崎市アートセンター

川崎市麻生区万福寺6-7-1 http://kac-cinema.jp

小田急線「新百合ヶ丘駅」北口より徒歩3分 ※駐車場はございません

前売券:800円(一般・学生とも) 2/8まで会場窓口にて販売
当日券:1000円
アルテリオシネマ会員:800円(ポイント対象外)
アルテリオシネマ招待券はご使用になれません。

※各回入替制・整理番号順入場・自由席・立見不可