2006.07.31

Category:講師

「1年映像科シナリオ指導」熊谷達文(脚本家)

 

ことしも1年映像科の夏のシナリオ指導の時期がやってきました。学生と対面してシナリオの基礎、セオリーなど尤もらしく偉そうに言ってたりするのですが、毎回、かならず一人二人そうとうな力量の持ち主がいて、こりゃ僕なんかよりずっと上いってるなぁ、と恐ろしかったり驚いたり、ドキドキときめいて楽しかったりするのです。

 

それで夏のシナリオは無理やりにでも書いて提出はするのですが、そのあとどうするのか。その人個人のテーマを追求し、掘り下げていくことでやがて作家となるのだ、というのがわりと一般的な指導になるんでしょうけど、具体的にどうすれば? 個人のテーマつーからにはじぶんの好きなことやってればいいのか。しかし、よくあるのが『じぶんの興味を究明する』のを『好きなように生きていく』と勘違いすること。そして、我慢強い訓練をよしとせず妄想芸術家みたく社会からはずれていく…、ありがちなんですね、これが。

 

どこへ向かっていけばいいのか、みんなにうまく伝える術はないものかと考えていたらありました、ヒントになる本が。
『芸術起業論』村上隆村上隆といえば、日本アニメなどのサブカルチャーをベースにしたポップな作品によって話題をさらい、海外でも高く評価されているアーティスト。彼は欧米での体験を踏まえ、芸術には世界基準の戦略が必要であるといいます。それは運動や娯楽で世界に挑戦する人のやるべきこととなんら変わることのないことで、勉強や訓練、分析、検証を重ねていき、ルールを踏まえた他人との競争のなかで最高の芸を見せていく、それがアーティストの仕事だといいます。
具体的には、欧米美術史の文脈を理解したうえで、そのルールを壊し、なおかつ再構成するに足るルールを構築できるか、そこを評価される。そのためには、まずそのルールを読み解かなければならない。要するに歴史を学べということですね。歴史、文脈から外れたところで好きにやってても相手にされないし、自分勝手な自由からは無責任な作品しか生まれない。
歴史を知るからこそ、それまでの根強い慣習や因習をふりきれる衝撃や発見や現実味のある革命を起こせるのだと。 こんなこと今までもさんざん言われたような気もするけど、なんかようわからんかったなぁ、とじぶん達のことを振り返って思う。いろんなエライ人の韜晦めいた言いまわしに眩惑され翻弄され、ずいぶんたたらを踏んだような…。
若いヤツって自意識過剰で愚かだから、いったん踏み外すと銀河の果てまでとんでいってしまい、つぎに会うのはずっと先の未来ってことがよくあります。ウゥ…(涙)。
もうすこし体系的に教え、アドバイスすることはできないか。映画・文学・哲学・思想などの歴史、その文脈を知ったうえで、あたらしい解釈・提案、あるいは確信犯的ルール破りの刺激的な作品が生み出されないか、そんなことを考えるとまたトキめいてシナリオ指導にも力が入るのです。

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