2007.02.05

Category:OB

「忘れられない映画~いのちぼうにふろう」小澤成行(演劇制作スタッフ)

 

誰にでも己の生涯のなかで、忘れられないこの一作という映画があるかと思いますが、私にとって1971年の日本映画「いのちぼうにふろう」(小林正樹監督)は、まさにその一作だと思っています。
この先、この映画の内容に触れた感想を書いていきますが、敢えて、ここでは、話の筋を説明しないことにします。

 

富次郎さんが、この「命がけの恋愛」を一生忘れないように、私もこの「素晴らしい映画」を一生忘れないと思います。
どんなに乱暴な人間にも綺麗なところが必ずあるのだと、この作品は思わせてくれます。それは、恐らく、この作品の中に込められた精神に、「人間を信じる強い思い」があるからなのでしょう。
定七さんには、人を殺す一面がある反面、母親のことについて触れられたくないという弱さや、安楽亭に迷い込んだ子供の雀を大切に世話する優しさとか愛情があります。

 

たとえば、川のほとりで子雀を入れた笊を見張っている場面。おみつさんの近くに居過ぎて、「それでは母親の雀も近寄って来られない」と指摘を受けて、恥ずかしいような、照れ臭いような不愉快なような表情を見せる定七さんが印象に残っています。富次郎さんが、おきわさんを廓から救い出したい必死の思いは、定七さんの人間としての善良な面を大いに刺激したのではないでしょうか。そのような定七さんの命がけの行為を引き受ける情熱に、与兵衛さんや源三さん達も大いに心を打たれて、死をも覚悟の上で、抜荷をやることになっていくのではないでしょうか。

 

最後に、心に残っているおみつさんの言葉。
「生きていちゃいけない人間なんて一人もいやしない」
重厚で壮絶なこの人間ドラマは、「善悪」の問題においての人間の存在の重層性や尊厳、それらを考えることの困難等を私に改めて感じさせます。
この作品で、小林正樹監督は「カンヌ国際映画祭」の世界の十大監督に贈られる賞を受賞しています。

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