2011.04.12

Category:OB

「『分からない』ということ」 川久保直貴(第20回新人シナリオコンクール佳作受賞)

 

気付けば卒業して早一ヶ月近くが経っています。震災の影響で卒業式に出席出来なかったので、あまり実感が湧きません。
先日も映画館でうっかり「学生一枚で」と期限の切れた学生証を出しながら言ってしまい、受付の女性に
「うわ、こいつ 300 円のためにセコいことしてんなー」という軽蔑の眼差しで見られました。誤解だよ!

 

「実感」と言えば、映画学校でのこんな経験を思い出します。

 

僕が在籍していた脚本ゼミで、「実在の事件をテーマに脚本を書く」という実習がありました。

 

僕が選んだ事件は、四人の少年達が起こした連続殺人事件。
よく「 2、3 人ぐらい殺してそう」とは言われますが、残念ながら殺人を起こしたことはありませんし、長らく友人の全く居ない生活を送って参りましたので、徒党を組んで何かヤンチャをしたこともありません。
僕にとっては別世界の人間達が起こしたとしか思えない事件でした。

 

今までの人生、「お前って、つまんねーな」と何度も言われてきました。
今もモニターの前で誰か言っている気がします。
事実、雑談に使えるようなおもしろエピソードすら一個も持っていません。
理由は明白で、社交性ゼロ故に、人間関係の全てに於いてフツーに過ごしていれば大体の人が通過するものから逃げて生きてきたからです。
だからあらゆる面で経験が無いし、人生サボってるから知識も浅薄。救いようが無いです。

 

そんな、脚本の武器となるはずの『実感』を何も持たない自分が、ただでさえ分からないこの人間達の何を描けというのか。
本当に、広辞苑の「暗中模索」という欄に載せたいぐらいの状態でした。

 

取り敢えず締切があったので、事実に即してでっち上げた初稿は、それはそれは酷い出来でした。何一つ分からない。全ての事象を何の作為も加えず、「でも事実なんで~」とハナクソほじりながら逃げようとするハナクソ以下のゴミクズだったように思います。

 

それでまた悩む。悩む。悩んで悩んで悩んで締切をひとつふたつ飛ばした頃、僕はふと、思ったのです。
「知るかー!!!!!!!!!!」と。

 

要するに開き直りでした。
分からんもんは分からん。知らない人の内面を描くなんて無理! 
どうせ自分みたいなモンにはロクなもんは書けんのじゃ、見栄張るのは辞めじゃー!

 

そうして半ばヤケクソの状態でまず始めたことは、最も分からない人物を「分からない人物」として描くこと。
そして、その人物に対して「分からない」と表明する人物を配置する。
どうだチクショウ、「分からない」の最強フォーメーション、作者も登場人物も誰も分からない脚本だぞワッハッハ。

 

……ところが、書き始めてみると不思議なことに、事実に即して書いていた頃より、登場人物が動いてきたのです。
相変わらず僕自身は彼らのことを「分からない」ままなのに。
そして、書いているうちに「この全然分かんない奴らは、次に何起こすんだろう?」と彼らへの「興味」が湧き始めたのです。

 

再び資料をひっくり返す。分かんない。考える。想像する。書いてみる。
「分かんねー分かんねー」言いながら。
それでも、分からないなら分からないなりに、何かを求めて僕も、登場人物達も、もがき苦しんでいたら、少しずつではありますが、前に進み出したのです。

 

そうして書き上げた稿は、多分映画学校に入学以来、初めて講師の方に「ちょっと面白いじゃん」と言って頂けました。
その日の帰り道、ちょっと泣きました。

 

その後結局、この脚本は、僕がその「何か」を掴み切ることが出来ず、最終的な完成に至ることができませんでした。
大変悔いの残る結果ではありましたが、彼ら「分からない」登場人物達と向き合った日々は、今も僕の中に何らかの残滓を残しています。

 

偉そうなことを言える身ではありませんが、「分からない」こと、「分からない」人を「分からない」と諦めて避ける前に、「分からない」そのものを考えることから「脚本」って始まるんじゃないかと、この脚本で何となく思った次第です。
そんな多分、至極基本的なことに、今更気付くなって話ですが。

 

何から何まで「分かる」話って、果たして面白いですか? ……と、自分に言い聞かせる意味でも。

 

これからも精進して参りたいと思います。

 

……ここまで長く書いておけば読んでる人もさぞ少ないだろうということで、最後にヤラシく宣伝をひとつ。

 

シナリオ作家協会主催の「第20回新人シナリオコンクール」にて、拙作「探偵より愛を込めて」が佳作を頂きました。
「タイトル、ダサッ」は禁句です。またしても、懲りずに「分からない」人たちの話を書きました。
「恋愛とか、分かるかー!」と苦しみながら書いた作品です。

 

「月刊シナリオ」の 6 月号( 5 月 3 日発売予定)にシナリオが全文掲載される予定ですので、
「豚みてーな顔して偉そうなこと書いてるけど、何書いてんだゲラゲラ」とからかい目的でも何でも構いませんので、お手に取って読んで頂ければ幸いです。

 

(日本映画学校 映像科23期生)

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