2011.06.07
Category:OB
映画学校を卒業して6年。
フリーターやニート、引き籠もり、そんな周囲に迷惑と心配ばかりをかける落後者を経て、気がつけばキャメラマンという肩書きで映画界の片隅に身を置かせていただいております。
人生って本当にほんのちょっと先のことまで何が起こるか分からない。
だからこそ魅力的であり、だからこそ恐ろしい。
2011年3月11日に起きた大震災は改めてそんなことを考えさせられた出来事でした。
東日本太平洋沿岸に発生した津波は、そこに存在していた声や形、全てを飲み込んでいきました。
日々刻々、すべてが変移していく無常な世界。
今在るものは今でしか在りえない。
地震発生から13日後に岩手県の宮古に入りました。
昨年、劇場公開した作品「ただいま それぞれの居場所」の続編を撮影するためです。
ロケ先がたまたま宮古市だったというだけで、津波の被害を受けた地域に入るつもりはありませんでした。
撮影予定地も海岸からすこし離れた山の中でしたし、監督と僕の中に「被災地に行ってもなにも出来ない。ならばあえて行くことをやめておこう」という共通認識があったからです。
取材対象者の方は無事でしたが、海が見下ろせる丘にあるその方の家は津波で押し流されていました。
「せっかくなんで見ていきませんか?」
待ち合わせ場所に現れた彼は開口一番にそう言い、撮影クルーを自宅へ案内してくれました。
僕は目の前に広がる光景が理解出来なくて、目を逸らすためだけにただただカメラのファインダーを覗きました。
直視すると現実に襲われ飲み込まれてしまうかのような恐怖感。
レンズ越しに世界を覗くことによってしか保つことの出来ないちっぽけな自我。
ここにはもう居られない。帰ろう。
4日間ほどを予定していたロケは、僅か3時間で終えました。
瓦礫の山からヘドロに塗れたスプーンを拾い上げた監督が言った一言。
「帰ったらこれでご飯を食べよう」
無力感だけが残る撮影。
何かしたい。何とかしたい。しかし何が出来るのか。
帰ってきてからずっと後ろ髪を引かれる想いで過ごしてきました。
そんな中、ゴールデンウィーク期間に再び東北を巡る機会が訪れました。
なぜ3時間しか滞在できなかったのか。
僕たちは何処へゆくのか。
それを探す旅でした。
3月11日以前の風景は今はもうそこにはありません。
それと同じく、今の東北は今の東北にしかありません。
常ならざる無常の世界。
今この瞬間しか無いのならば、その瞬間を僕は直視し、直視したものを僕の目線で記録するしか無い。
それが今現在キャメラマンを名乗る僕に出来る唯一のこと。
耐え難い恐怖と悲しみから目を逸らすことなくそこに居るということ。
記録した映像は映画になりました。
今を今と描き、今公開する。
その意味は確かにあったように思います。
(日本映画学校 映像科17期生)
『無常素描』
The Sketch of Mujo
2011年/日本/HD/75min/ドキュメンタリー
撮影:山内大堂 ( 日本映画学校 17期生)
編集:遠山慎二 (日本映画学校 15期生)
構成:辻井潔 (日本映画学校 16期生)
宣伝美術:成瀬慧 (日本映画学校 15期生)
配給:東風 (日本映画学校 木下繁貴 12期生)
東京 オーディトリウム渋谷にて
2011年6月17日(金)19:30より先行上映
2011年6月18日(土)よりロードショー
12:50|14:30|16:10|17:50|19:30|※19:30の回は英語字幕あり
大阪 シアターセブンにて
2011年7月2日(土)よりロードショー
名古屋 名古屋シネマテークにて、今夏
他、全国順次公開
公式サイト >> http://www.mujosobyo.jp/
予 告 編 >> http://youtu.be/Gq8IkifPX7I?hd=1