2012.11.06

Category:学生

「こんな日もある」井澤昌也(日本映画大学2年)

「こんな日もある」井澤昌也(日本映画大学2年)

 

二十数年生きていると、いろいろなことが起こるものです。
先日、こんなことがありました。
課題の脚本に頭を悩まし、部屋で一人うんうん唸っていた夕暮れ、私は我が家の異変に気が付きました。
兄の部屋が臭うのです。
二歳年上の兄はその日仕事で家を空けていました。
その兄の部屋から、焼いた魚の臭いというか、焦げた醤油の臭いというか、何やら不快な臭いが立ち込めているのです。
家にいた母にそのことを話すと、
「実は私も二日前からその臭いが気になっていた」と言うので、とにかく二人で原因を突き止めることにしました。

 

大の男が、平日の夕方に母と二人で部屋をクンクン嗅ぎ回る姿はさぞ滑稽だったことでしょう。
ほどなくして私は、兄の服が脱ぎ散らかされて山になっている一角から臭いが発生していることに気付きました。
私と母はその服の山を上から順に除去し、調べていきました。
そしてその山の一番下にあったもの…
それは猫の死骸でした。
一ヶ月前に失踪した隣人の飼い猫・ブーちゃんでした。
名前入りの首輪が付いていたので、すぐにそれとわかりました。
少量の血を吐いてはいましたが、安らかに事切れているのでした。
ただそれを発見したときの我々の衝撃といったら。
すぐに隣人を呼び、ブーちゃんであることを確認してもらい、一緒に片付けました。
ブーちゃんは、産まれてすぐのときから16年間も隣人に飼われ続けていたということでした。

 

猫は自らの死期が迫っていることを感じると、主人に自分の死んだ姿を見せぬよう、そっと家を出て行くといいます。
また、最も安らげる場所を死に場所に選ぶとも聞きます。
私はそれを迷信だと思っていましが、どうやら本当のようです。
兄の部屋は隣人の家から最も近い位置にあり、隣人の笑い声が一番よく聞こえる部屋だったのでした。

 

しかしその猫がいつからそこにいたのか、どうやって我が家に入ったのか、それは未だに謎のままです。
その日帰宅した兄に事の一部始終を話すと、彼も二日ほど前から臭いに気付いていたということでしたが、原因が自分の体臭にあると思い込み、内心気を落としていたそうです。
決して気がふれて、猟奇的な行動に奔ったわけではないということをここに明記しておきます。
またこんなこともありました。
先日、羽田から飛行機で鹿児島に向かっていたときのこと……と、思ったら紙面が尽きてしまいましたので、この辺で失礼させて頂きます。御後が宜しいようで。
(日本映画大学映画学部1期生)

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