2024.02.06

Category:教員

パレスチナ・イスラエルに関わる紛争について(二)

日本映画大学名誉教授 熊岡路矢
日本国際ボランティアセンター(JVC)元代表

(この小論は筆者個人の意見です。)

1) パレスチナ地域におけるイスラエルの「戦争」は、1976年第4次中東戦争以後、最悪の状況になり、拡大している

 

【南アフリカによる国際司法裁判所への、イスラエル「ジェノサイド」提訴】

昨年12月南アフリカは、イスラエルのガザ軍事攻撃に関して、あまりに多くの一般市民(こども、女性ふくむ)の死傷が多いため、ジェノサイド条約に基づき、イスラエルを「ジェノサイド」(大量虐殺)の罪でICJ(国際司法裁判所@ハーグ、オランダ)に訴えた。審理は1月11日審理が開始され、26日暫定措置を命じた。なおガザの人々は、イスラエルの空爆、また地上軍による攻撃で殺傷されるだけでなく、封鎖による水、食料の欠乏での病気、栄養不良、衰弱、感染症、餓死の危険にもさらされている。

 

他方、イスラエルは自らが虐殺の被害者であり、ガザでの死傷者は大部分がハマスの兵士だと主張している。また一部スタッフがハマスに加担したというイスラエルの主張から、UNRWA(国連パレスチナ難民救済活動機関)への資金許与を、米国、ドイツ、EU、日本など18カ国・地域が一時停止した。

 ICJの決定は、ジェノサイド条約(大量虐殺の罪の防止・処罰に関する条約)で定義されたジェノサイド行為の自制ジェノサイドを直接的かつ公然と扇動する行為の防止と処罰ガザの民間人への人道支援を確保するための即時かつ効果的な措置などだ。

 

重要な点として、ジェノサイドの証拠を保全し、今回の命令に従ってとったすべての措置に関する報告書を1カ月以内にICJに提出するようにも命じている

①【イスラエルと周辺国】

イスラエル北部、隣接するレバノンでは、イスラエル軍とレバノンのヒズボラとが交戦している。シーア派系政治・軍事組織ヒズボラは、イランから支援を受けつつ、ガザ・ハマス支援を意図している。イスラエルは、レバノンへのミサイル攻撃以外に、シリアのイラン軍事拠点への空爆も行った。

 

②【地域を超えて拡大する空爆、戦闘】

パレスチナ地域内勢力による戦闘だけでなく、イエメンのフーシ派が、紅海やアデン湾を航行する船舶を攻撃したこと等により、1月米英軍が複数回、イエメン、フーシ派拠点を空爆した。また米軍は、ヨルダン内の米軍施設への無人機攻撃で米兵が殺傷されたことで、イラク、シリア内のイラン軍事拠点への空爆を行なった。現在のところ、米国もイスラエルも、イラン国内への直接攻撃は避けているように見えるが、対立・戦争状態の中東地域全体への波及のみならず、大きく見れば、冷戦時代(1947年~1991年)以来初めての、ロシア、中国などの大国もからむ世界規模の争いの構図が広がっている。

③【ウクライナーロシア戦争】

この間、ロシアの軍事攻撃(2022年2月24日)以来ウクライナ支援で一応まとまってきた米・英・欧州も、国際人道法を守らないイスラエルへの支援を行っているために、中間的立場のグローバル・サウス(=インド、インドネシア、南ア、トルコ等)から距離をおかれ、また自国市民とくに青年層からの批判も受け、自国内、また国際的な立場が弱くなっている。

 

「ロシアのウクライナへの軍事攻撃はけしからん」と言っておいて、イスラエルのガザ攻撃は自衛のための正当な戦争」と主張していては、一貫性信頼性は失われる。他方、ロシアは、イスラエルを批判し、パレスチナ側を支持することで、「中間」の立場の国々との関係を取り戻してきていいる。

 

なおウクライナ戦争そのものは、ウクライナ反転攻勢が成功していない現況で、ロシアは相対的な武器総量による優位(質はともかく)、またある種の人海戦術(大都市圏の白人ロシア人ではなく、各地域の少数民族、貧困地域および海外からの兵員リクルート)により、大量の死傷者を出しながら、全体としては「既得占領領土」(東部二州、南部二州、クリミア半島)支配を維持している。

 

かさむ戦費、また兵員・人員の死傷者の拡大、またその犠牲への国内からの批判などで、両国とも厳しい時期を迎えている。自国民の独立心と欧米などの軍事、経済支援でここまでやってきたウクライナであるが、一部もともとあった「汚職体質」や、大統領と軍幹部との対立もあり、また世界の関心のかなりの部分がパレスチナに移ったこともあり、いまは苦境にあるといえる。2月3日ゼレンスキー大統領による、サルジニー軍最高司令官解任が伝えられた。

 

④【ロシア国内と大統領選挙】

ロシアではまもなく3月17日に大統領選挙が行われるが、毎回のように対抗候補を逮捕・拘留あるいは立候補を認めない、(あるいは対立候補の「謎の死・病」など)で「圧勝」してきたプーチン大統領は、今回も勝つ可能性が高い。

 

「反戦」、ウクライナ戦争の終結などを掲げるナジェディジン候補の立候補は、プーチン大統領の息がかかった選挙管理委員会によって認められない可能性が強い。プーチン(1952年10月07日生まれ。71歳)の最大の敵は、健康問題、高齢化と「突然の事故」であろう。

⑤【米国の大統領選、再び同じ高齢候補の争いになるのか】

米国でも11月に大統領選挙がある。2020年総選挙と同じ、民主党バイデン現大統領(81歳)対 共和党トランプ前大統領(77歳)の戦いになる可能性が高いと見られている。(2020年はトランプが現職で、バイデンが挑戦者。今回は逆。)

 

ハイレベルの大統領選挙とはいえ、米国は、こんなに政治家の人材の少ない国なのかと驚く人も多い。ただし両候補共に、高齢であるがゆえに11月までに病気や、大きな怪我をするなどして大統領選から離脱する可能性もある。

 

他にもハードルはある。トランプは、数えきれない裁判(性犯罪的なものから、公金の詐取的なものある。最大の汚点は、2021年1月に正式な退陣直前、選挙結果に不満で、群衆が国会を襲った事件での示唆をおこなったとされる事件である。一種の国家反逆罪である。)をかかえ、一部案件では地裁で有罪判決があり、高額の罰金支払い等が命じられている。トランプはこれらの訴えを「フェイク」、「魔女狩り」と非難し、強気な態度を崩さない。熱狂的な支持者の数もあまり減っていないようである。支持層は、保守的なキリスト教会員、海外への工場移転でしごとを失った労働者、白人至上主義的な意見をもつ人々、一部「陰謀論者」で、最終的な大統領選はともかく、共和党でのトランプ指名の可能性は高いようである。

 

他方、民主党バイデンは高齢であることへの批判、言動の不安定なこと、ウクライナ戦争と、イスラエルの戦争をかかえ、的確に動けていないなどの批判を受けている。半分冗談であるが、共和党が最終的にトランプ候補でまとまった時のバイデンサイドは「人気歌手テイラー・スイフトとそのファンの支持が最後のたより」とも揶揄されている。最終的に本人が選挙戦からおりて(過去に現職大統領が一期で退任した事例はある。第36代大統領、民主党リンドン・ジョンソン)、若くて有力な候補者に出馬を譲る可能性もあると思う。「第三の候補」の善戦もすこしはあるが、基本、就任時に82歳のバイデン、78歳のトランプの争いというのは、二人の問題というより、米国の若い世代の有権者からみると魅力はないだろうなと考える。

 

⑥【米大統領選挙結果と、パレスチナ問題、ウクライナ戦争の関係】

バイデン大統領の体制が続く場合。イスラエルの強引なやり方、パレスチナの一般市民、こどもたちの犠牲のあまりの多さに苛立ちつつ、イスラエル支持の基本は変わらないだろう。一応、「二国共存」という最終解決の方向性はもっているが、イスラエルを説得出来ていない。

 

ウクライナに関しても、現在の支持を続け、しかしロシアのプーチン体制が変わらず、攻勢が続いてある種の膠着状態になる場合には、米英、EUは、トルコなどと協力して、ウクライナーロシア間の妥協ポイントをつめて、停戦・休戦の協議に入ろうとするだろう。

 

選挙に勝ち、2025年1月から正式にトランプ政権になった場合、まずウクライナへの軍事、経済支援を激減させて、個人的に関係のよいプーチンと、ロシア優位の停戦に持ち込むのではないだろうか、中東に関しては、イスラエル支持をさらに明確にし、パレスチナ側から見ればさらに希望のない状況がもたらされる。

 

(なお紙面の都合で今回書けなかったが、上記これらの戦争・紛争の下、ウクライナでの原発プラントへの攻撃あるいは管理不全・事故の可能性、また米国、ロシア、英仏、イスラエルなど核兵器所持国がからみ、世界の脅威になっている。次回以降、取り上げたい。)

 

〈連載アーカイブ〉

パレスチナ・イスラエルに関わる紛争について(序)

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