2018|56min|ドキュメンタリー
ここは中国農村部の小学校。3年生の毛勝智は、お調子者でいたずらっ子。そんな彼も実は「留守児童」のひとり、両親がそばにいないのはやっぱり寂しそう。恥ずかしがり屋の毛正発は、もうすぐ卒業を迎える6年生。障がいのある両親と幼い妹たちとの貧しい暮らし。家庭のことは彼の悩みの種だ。2年生の趙海龍は、妹の出産時にお母さんを亡くしてしまった。父親の天友が男手ひとつで頑張るけれど…。
この映画は、中華人民共和国・甘粛省慶陽市のある農村を舞台に、村で唯一の小学校に通う子どもたちとその家族を追った記録である。
中国北西部に位置する甘粛省は、西に新疆ウイグル自治区、北は寧夏回族自治区や内モンゴル自治区と隣接し、省の中央部には黄河が流れている。
黄河中流下部に位置する甘粛省慶陽市は、約6,000~7,000年前に黄河文明が栄えた地域の一部であり、史上初めて中華を統一した「秦」の発祥の地でもある。また、社会主義革命においても重要な場所とされている。
日本に飛来する黄砂の主要な発生源である黄土高原に属するこの地域は、乾燥していて年間降水量が少なく、土壌流出が激しいのが特徴である。農村部に行けば、粘性の高い黄土を使った横穴式の伝統的な家屋「ヤオトン」が今でも多く見られる。
改革開放政策により市場経済を導入後、急速な発展を続けてきた中国では都市部と農村部との格差が拡がり、様々な歪みも生まれている。
「留守児童」問題もそのひとつだ。「留守児童」とは、親が高収入を求めて農村から都市に出稼ぎに行くことで農村に取り残される子どもたちのことである。
2016年11月の中国民生部の発表によれば、中国全体で902万人の「留守児童」がいる。
また、都市部と農村部の教育格差も大きな課題となっている。中国にも日本と同じ9年制の義務教育制度があるが、学校の設備や教師の数や質などにおいて、都市部と農村部では大きな隔たりがある。
毛正発
毛勝智
趙海龍
毛銀峰
劉亜亜
劉慶泉
毛春妮
毛春燕
李宝珍
毛志真
毛進緑
趙天友
趙思佳
王玉梅
王統
毛正軍
何驛鳳
毛河小学校のみなさん
慶陽石油会社のみなさん
紙坊村のみなさん
肖金鎮のみなさん
企画・監督:胡旭彤
撮影・編集:鈴木総平
制作・編集:太田晋平
プロデューサー:上清水温子
現地通訳:甄雨
字幕翻訳:李晨、喬楽、王佳瑞、張新生
企画協力:黄俊
題字:張佳琪
協力:王大龍、高偉偉、張龍、侯東方、晏妮、張博文、金丸紘平、後藤雅人、中川葉、安藤真帆、池谷薫
参考文献:現代中国における「留守児童」問題に関する研究動向と課題
―家族関係、子どもの教育とジェンダーを中心に―
劉楠(男女共同参画推進室米沢分室助教)
山形大学紀要(社会科学)第47巻第2号, 21-39頁
平成29年(2017)2月
私は中国社会、特に、近年急速に発展中の中国において農村部の様子に興味を持ちました。
また、企画を立てる時からずっと、「貧しいだけではなく、貧しさの奥にあるものを撮りたい」と言い続けてきました。
そして、中国農村部の現状を世界中の多くの人に見せるべきだと信じてきました。
映画を媒介として、彼らの声なき声を拾いたい、そこに生きる人々と外の世界を繋げたいと思いました。
本作で描いた小学校と3つの家族。
「留守児童」「教育」「貧困」「家族」など。
全ては大きなテーマですが、全ては私たちにとって大きな課題だと思います。
今回、中国で撮影し映像素材を携えて、山を越えて飛行機に乗り、日本に持ち帰るだけで難しく感じ、まるで戦場を突き進んだような気分でした。
「その場所で暮らしている村民にカメラを向けることで、カメラは武器になり得るかもしれない」と指導の先生から言われた事があります。
でも、私は逆にこう思いました。
だったら、カメラを武器にして、私たちは(村の人たちを)護りたい、と。
これは彼らの暮らし。
いろんな見方があるかもしれませんが、ここで実際に起きていることなのです。