ここはプロの映画人が映画を作ることを教える特別な大学だ。
どんなに映画を見ていても、最初は何もできないだろう。それでいい。経験に裏打ちされていない知識がいかに脆弱か、それがわかればいい。
もう駄目だ、絶対無理だ、あり得ない、などと思うこともあるだろう。逃げ出す前にもう一度やってみるべきだ。失敗したってかまわない。逃げなければ次のチャンスは必ずくる。
友だちなんかできないと思っている人、映画は一人では作れない。だから映画を作れば必ず仲間ができる。いつの時代、どこの国でも映画を作っているやつは私たちの仲間だ。
映画は馬鹿には作れない。ガキには作れない。頭の中だけでは作れない。人間の歴史と世界の現実を知らなくては作れない。汚いものから目をそむけるやつには作れない。美しいものがわからないやつには作れない。技術がなければ作れない。でも技術だけでは作れない。気持ちがなければ作れない。でも気持ちだけでは作れない。
映画は複雑で難しくて不自由で乱暴で、あらゆる能力を限界まで絞りださないと作れない。しかも、映画に正解はないのである。
苦労して作った作品を観客に見せる前の晩、君は眠れないかもしれない。でも気づけば、あんなに苦しんだことも簡単にできるようになっている。少しタフになり、少し大人になり、少し賢くなっている。そして君には仲間がいる。
映画を作る力があれば、何だってできる。エンドロールに自分の名を見ながら、君はそう実感するはずだ。
映画と格闘する四年間の経験は確実に君の人生を変えるだろう。
他では味わえない四年間を保証する。
天願 大介Tengan Daisuke
出版社に勤務中の1990年、『妹と油揚』で注目され、1991年『アジアンビート(日本編)アイ・ラブ・ニッポン』で長編監督デビュー。以後、『無敵のハンディキャップ』(1993)、『AIKI』(2002)、『暗いところで待ち合わせ』(2006)、『世界で一番美しい夜』(2008)、『デンデラ』(2011)、『魔王』(2014)を監督。最新作は『赤の女王 牛る馬猪ふ』(2014)。脚本・脚色を手掛けた作品は、『うなぎ』(1997)、『カンゾー先生』(1998)、『オーディション』(2000)など多数。『十三人の刺客』(2010)の脚本で第13回菊島隆三賞受賞、第21回、22回、34回日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞。劇作家、舞台演出家としても活躍中。2017年4月、学長に就任。
映画を作ることは面白い仕事です。作り手たちの技術、才能、ものの考え方が如実に作品に現れます。自分はこういう人間だったのかとあらためて自分を見直すことがしばしばです。映画を学ぶということはこうして人間を学ぶことですし、社会を学ぶことです。
こうして出来上がった映画は、その面白さ、感動、そこに含まれている情報の深さ、重要さによって人々に注目され、人々を結びつけ、さらに世界を結びつけます。本当にやり甲斐のある仕事です。
今日では、テレビやビデオをはじめ多彩な映像文化が開発され、花盛りの盛況です。しかし、それを長年にわたって先頭に立ってリードしてきたのは映画です。映画の作り方をしっかり身につければ、テレビをはじめとする広大な映像文化の世界のどこに行っても立派に仕事をして表現者として自立することができます。
これからは、作るだけではなく、それを学問的に研究し、普及させ、教育や行政や、文化交流にも活用できるすぐれた人材が求められるようになります。映画を作ることにそそがれてきた情熱と同じような情熱がそれらにもそそがれなければならない。
映画はいま、世界を結ぶ文化です。しかしそれが本当に正しく世界を結びつけているかといえば問題はたくさんあります。映画で自分を知りたいと思う人、他人を知り、人々をよりよく結びつけたいと思う人にとっては、日本映画大学はとてもいい大学です。教員も学生もそういう人たちが主に集まっていますから。
佐藤 忠男Sato Tadao
1930年、新潟県生まれ。日本を代表する映画評論家であり、アジア映画研究の先駆者。芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、勲四等旭日小綬章、韓国王冠文化勲章、フランス芸術文化勲章シュバリエ章受章、モンゴル国政府優秀文化人賞、毎日出版文化賞、国際交流基金賞、神奈川文化賞、The CILECT Teaching Award 2016など多数受賞。2017年4月、名誉学長就任。2022年、没。